「月2万円」で暮らす!? 森永卓郎さんが考える「ミニマリズムと田舎暮らし」

定期誌『毎日が発見』の森永卓郎さんの人気連載「人生を楽しむ経済学」。今回は、「ミニマリズムと田舎暮らし」についてお聞きしました。

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格差社会への疑問が生んだ考え方

いまミニマリズムという行動規範が世界中で広がり始めています。

ミニマリズムというのは、モノへの執着を捨て、シンプルな暮らしに徹するライフスタイルのことです。

なぜミニマリズムが注目されているのかというと、1980年代以降に広がったグローバル資本主義が大きな矛盾を露呈するようになったからです。

矛盾の一つは、地球環境の破壊です。

かつては長雨が続くだけだった梅雨が、いまや集中豪雨で河川の氾濫や土石流が頻発し、私たちの暮らしを脅かしています。

エネルギー消費の拡大で、地球が温暖化しているからです。

また、世界を大混乱に陥れた新型コロナウイルス感染症の爆発的流行も、グローバル化が大きな要因となりました。

いまのような世界的な人流がなければ、新型コロナは風土病の一つで終わっていた可能性もあるのです。

もう一つ、グローバル資本主義がもたらした格差の拡大も、許容限度を超えるレベルに達しています。

世界人口76億人のなかで、下位半分、36億人が保有する資産は153兆円ですが、この金額は世界の最富裕層26人が保有する資産額と同じなのです。

格差拡大に伴い庶民の所得環境がずるずると悪化するなかで、暮らしを守るために必死で働き続けることに意味があるのでしょうか。

流行を追いかけ、次から次へとモノを買い、その資金を得るために、さらに我慢して働くという人生が本当に幸せなのでしょうか。

そうした疑問がミニマリズム台頭の背景にはあるのです。

実は、そんな世界トレンドとは別に、日本の高齢層には、好むと好まざるとにかかわらず、ミニマリズムの実践が求められるようになります。

公的年金の給付額が大きく減っていくからです。

数十年後には、厚生年金の夫婦二人の給付額は、モデル年金で月額13万円ほどに下がっていきます。

しかもモデル年金は、あくまでも40年間保険料をきちんと納付した人の場合の年金なので、平均の給付額はもう少し下がります。

また、健康保険料や介護保険料などを差し引いた後の手取りでは、月額10万円ほどの人が多くなるものとみられます。

その程度の収入で老後の毎月の暮らしをどのように賄ったらよいのでしょうか。

まず思い浮かぶのは、「田舎暮らし」という選択肢です。

田舎暮らしには、どのくらいのコストがかかるのでしょうか。

まず、極端なケースからみていきましょう。

「月2万円」で暮らすユニークな試み

いまネットで、話題を集めている「まさや」さんという若者がいます。

彼は、「テントだけで暮らしてわかった31のこと」と題したツイートで、「月2万あれば暮らせる」と発表しています。

25歳のまさやさんは、大学卒業後、営業職として働いていましたが、高い生活費を賄うために働き続ける暮らしに疑問を感じ、千葉県の山林に80坪の土地を購入して、小屋暮らしを決断しました。

土地の購入費用は80万円で、いまは小屋を作る前段階としてテント暮らしをしています。

まさやさんは、私が出演しているニッポン放送の「あなたとハッピー!」という番組に電話出演してくれたのですが、とても明るい人で、自由な生活を心から楽しんでいることが伝わってきました。

まさやさんによると、テントでも住民登録はできるし、生活に困難はないということです。

電気もガスも水道も通っていない土地ですが、生活用水はカーポートの屋根に降った雨水を集め、飲料水はスーパーの無料の水を利用しています。

電気は、百ワットの太陽光パネル2枚とポータブルバッテリーで賄っていて、その電力でパソコンなどの電源を賄っています。

本当は軽トラックが欲しいそうですが、いまのところ原付バイクで我慢をしています。

暖房と調理は、小型の薪ストーブとカセットコンロを併用しているとのことです。

実はまさやさんの生活費は、もっと下げられる余地があります。

まさやさんは、いまのところ自給自足ではなく、食材はスーパーに買い出しに行っているのですが、空いている土地を畑にして農作物を育てれば食費を節約できます。

80坪という土地があれば、50坪くらいは畑が取れます。

それだけの面積であれば、暮らしに必要な食べ物のかなりの部分が収穫できるのです。

私自身も、いま30坪の畑で20種類ほどの野菜を育てていますが、冬場を除けば、野菜はほぼ自給できています。

だから、畑をやるようになれば、まさやさんの生活費は、おそらく1万円程度まで下がるでしょう。

ですから、単に生き続けるだけであれば、年金給付が下がっても、田舎暮らしで十分乗り切れることになります。

ただ、知人で田舎に移住した人の話を聞くと、夫婦二人で月額10万円ほどの収入がどうしても必要だと言います。

田舎暮らしでは、家賃が劇的に下がるのですが、田舎暮らしのほうが、コストがかさむことも多いからです。

また田舎暮らし特有の問題点もあります。

そうした点は次回に詳しくお話しします。

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森永卓郎(もりなが・たくろう)
1957年生まれ。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。東京大学卒業。日本専売公社、経済企画庁などを経て現職。50年間集めてきたコレクションを展示するB宝館が話題。近著に、『なぜ日本経済は後手に回るのか』(角川新書)がある。

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この記事は『毎日が発見』2021年9月号に掲載の情報です。

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