介護が必要になったとき、自宅に住み続けながら介護を受けることを「在宅介護」といいます。内閣府の調査によると、在宅介護を望む人は男女とも7割を超えています。今後、親や家族、配偶者、そして自分の介護などに、直面することもあるでしょう。在宅介護を行う上で、どのように介護保険を使ったらいいのか、ケアマネジャーとの関係や家族の関わり方などについて、現役の主任ケアマネジャーである田中克典さんに聞きました。
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●宿泊して介護を受けるショートステイ
普段は自宅で介護を受けている人が、数日から1週間程度、介護施設などに泊まって日常生活の介護や医療ケア、機能訓練などを受けることを「ショートステイ」といいます。要支援1から要介護5の人が利用できます。
ショートステイは、介護を担っている家族が冠婚葬祭や出張などで数日家を空けなければならないときや、病気やケガで介護ができなくなったときなどに利用されています。また「レスパイト」といって、介護する人が一時的に介護から離れることで、介護ストレスを減らしリフレッシュする目的で使うこともあります。
ショートステイはおもに特別養護老人ホーム(特養)や介護老人保健施設(老健)などの介護施設で行われています。最近は介護保険が使える民間のショートステイも増えています。「近年よく見かけるのは、建物の1階がデイサービスで、2階がショートステイというように、一つの法人が同じ建物や同じ敷地内で両方を運営しているケースです。ショートステイを利用する人にとっても、普段デイサービスで通っているところと同じ場所にあるショートステイなら、初めて行く場所よりも安心できるようです」と田中さん。
ショートステイでは入浴、食事、洗面、着替えなどの日常生活の介護や、レクリエーション、体操などが行われます。特養や老健などで行事が行われているときには、一緒に参加することができます。
●部屋のタイプによって費用は異なる
ショートステイの費用は、要介護度と部屋のタイプによって異なります。特養や老健に泊まるときには、2人部屋以上の大部屋(多床室)、一般的な個室(従来型個室)、共用スペースのある個室(ユニット型個室)などから選べる場合があります。民間のショートステイは個室しかないところもあり、滞在費(部屋代)も介護施設に比べると割高な傾向があります。
「費用を抑えたいので特養の多床室がいい、一人でゆっくり過ごしたいから個室にしたいなど、要望があればケアマネジャーに伝えます。ショートステイは希望者が多いので予約が取りにくいことがあるため、早めにケアマネジャーに連絡するとよいでしょう。緊急のときには選ぶ時間はないかもしれませんが、日数的に余裕があるときには事前に何カ所か見学に行き、目星をつけておくと安心です。ショートステイは介護保険を利用して連続で最長30日まで利用でき、31日目からは自費になります」と田中さん。
厚生労働省によると、ショートステイで特養の多床室を利用したとき、1割負担の人のおおよその1日の費用の目安は下記の通りです。
・要支援1... 437円
・要支援2... 543円
・要介護1... 584円
・要介護2... 652円
・要介護3... 722円
・要介護4... 790円
・要介護5... 856円
上記の金額にプラスして、例えば特養では食費が1日1,380円、滞在費(部屋代)が多床室は1日840円です。ほかに嗜好品、雑誌、コインランドリー代、理容代などの日常生活費(実費)がかかります。特養や老健の場合、滞在費は部屋のタイプによって異なり、個室やユニット型個室などは多床室よりも高く設定されています。民間のショートステイの費用は施設ごとに異なります。
所得が低い人に対しては、食費と滞在費について所得に応じた負担限度額(上限額)が設けられていて、それを超えた分は介護保険から給付されます。給付を受けるには、市区町村への申請が必要です。
●レスパイトとしてのショートステイ
レスパイトとは「休息」「小休止」を意味します。日常的に家族などの介護を行っていると、次第にストレスを感じるようになります。肉体的にも精神的にも負担がかかるために追い詰められて「介護うつ」になったり、仕事との両立が難しくなり「介護離職」に追い込まれるケースも少なくありません。家族が疲弊したり収入が減ったりすることで、家族全体の生活の質の低下につながることもあるのです。
よりよい介護のためには、介護をする側の人が心身共に健康であることが第一です。そのためには一時的に介護から離れて自分の時間を持ち、リフレッシュすることが大切。定期的にショートステイを利用することは、介護する人へのケアとしても重要な意味を持ちます。
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取材・文/松澤ゆかり