介護が必要になったとき、自宅に住み続けながら介護を受けることを「在宅介護」といいます。内閣府の調査によると、在宅介護を望む人は男女とも7割を超えています。今後、親や家族、配偶者、そして自分の介護などに、直面することもあるでしょう。在宅介護を行う上で、どのように介護保険を使ったらいいのか、ケアマネジャーとの関係や家族の関わり方などについて、現役の主任ケアマネジャーである田中克典さんに聞きました。
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●住宅改修で一人が使えるのは20万円まで
長年住み慣れた自宅でも、年を取って体が不自由になると生活しづらくなることがあります。ちょっとした段差でつまずいて転んでしまい、それが原因で骨折し寝たきりになる恐れも。自宅に住み続けるためには、住みやすくリフォームする必要があります。介護保険では自宅の改修工事をした場合、費用の一部が支給されます。対象は要支援1・2の人と要介護1から5の人で、費用は一人20万円まで。そのうちの1割から3割が自己負担額です。
「20万円は一度に全部使わずに、何度かに分けて使うこともでき、また自宅を引っ越したり、要介護度が3段階以上、上がったときには再度20万円使えます。改修費用はいったん利用者が全額を支払って、後日、介護保険から自己負担額を除いた金額が支給されます。最近は初めから1割から3割負担で済む自治体も増えてきました」と田中さん。
介護保険の対象となる住宅改修には次のようなものがあります。
<介護保険の対象となる工事>
・手すりの取り付け
・段差や傾斜の解消
・引き戸などへの扉の取り替え
・洋式便器などへの便器の取り替え
・滑りにくい床材、移動を円滑にする床材への変更
・上記の工事に伴って必要となる改修
●在宅介護に適した部屋作りのポイント
「介護が必要な人が住みやすい部屋にするためには、ケアマネジャーだけでなく理学療法士や福祉用具専門相談員などから、専門家としてのアドバイスを受けるとよいでしょう。家の環境は千差万別ですし、本人の体の状態についても、半身に麻痺があるのか、車いすが必要なのかなど、一人ひとり異なります。家に来てもらって実際に室内を見たうえで検証し、具体的なアドバイスをもらうことが大切です」と田中さん。
浴室やトイレ、廊下、階段などに手すりを設置すると、ふらついたときの支えになります。
廊下や部屋の入り口のちょっとした段差にはミニスロープをつけると、つまずきを防ぐことができ、車いすを使うときにも移動が楽です。玄関の上がり框(かまち)の高さが高いときには、踏み台を置いて段差を和らげたり、玄関にも手すりをつけると出入りがスムーズ。玄関を出たところの数段の階段にも手すりをつけると安心です。
●生活しやすい部屋作りの例
78歳で要介護2のAさんは、これまで2階の寝室で寝ていましたが、階段で転びそうになったのをきっかけに、寝室を1階リビング脇の和室に移動することにしました。寝室を1階に移すと、寝ているときに自然災害が起こって避難するときにも、外に出やすいというメリットがあります。Aさんは若いときからずっと布団で寝ていましたが、立ち上がりやすいようにレンタルで介護用ベッドを入れることにしました。
1階の廊下から隣のリビングに入るドアには丸いドアノブがついていました。Aさんは最近、ドアノブを回しにくく感じていたのでレバー式に変更。ドアの下にあった高さ数センチの敷居をとり除いて床を平らにしました。敷居がなくなったために扉の下の部分と床の間にできた隙間は、扉の下の部分に継ぎ足し加工をしたので目立ちません。トイレ、風呂場、玄関の上がり框、玄関を出たところにある3段の階段には手すりをつけました。
<Aさんの住宅改修費>
・丸いドアノブをレバー式に変更:1万円
・ドア下の敷居撤去とドアの継ぎ足し加工:4万円
・トイレ、風呂場、玄関の上がり框に手すり設置:3か所で5万円
・玄関を出たところの階段に屋外用手すり設置:10万円
この場合の住宅改修費の合計額は20万円。Aさんの自己負担割合は1割なので、Aさんが実際に負担する金額は2万円です。
●事前に申請しないと費用が支給されない
住宅改修をするときには、工事前にアマネジャーに相談して市区町村に申請します。先に申請を出してから工事を行わないと、介護保険の対象にならないからです。「申請せずに先に手すりなどを取り付けて、その後でケアマネジャーに連絡する人がいますが、そのような場合は住宅改修費が支給されないので注意が必要です。工事費用は改修業者によって異なるため、2カ所以上から見積もりを取って比較するとよいでしょう。改修業者が決まったら、申請に必要な書類を作成し、役所から承認を受けて工事がスタートします」と田中さん。
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取材・文/松澤ゆかり