なぜ値上げが止まらない? 森永卓郎さんが考える「バブル崩壊の時期」

定期誌『毎日が発見』の森永卓郎さんの人気連載「人生を楽しむ経済学」。今回は、エブリシングバブルの行方」についてお聞きしました。

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儲けた人の「真似」がバブルを生む

電気代やガソリン代、小麦、食用油、調味料、菓子など、あらゆる商品の値上がりが続いています。

値上がりの原因は、ウクライナでの戦争だと思われている方も多いと思います。

確かに戦争が物価高騰に輪をかけたのは事実ですが、その前から物価は上昇していました。

例えば、現在1バレル100ドルを超えているニューヨーク市場の原油価格は、一昨年末が47ドル、昨年末が72ドルと、戦争前から大きく上昇していたのです。

そうした事情は、小麦などでも同じです。

なぜそうした値上がりが起きたのか。

それは金融緩和が原因です。

2008年に起きたリーマンショックによって、世界は深刻な不況に直面しました。

そして何とか景気を刺激しようと、各国の中央銀行は、無利子に近い低金利で大量のお金を供給したのです。

それが、コロナ禍の経済危機で一層拡大しました。

ところが、魅力的な投資先が見つからないなか、世界にあふれたお金は、投機に向かいました。

誰かが、ある商品を買ったあと、その商品の値上がりで儲けを出すと、それを横目でみていた人たちが真似をする。

すると、買いが増えるので、商品はまた値上がりをする。

それをみたより多くの人が投機に参入してくるので、ますます値上がりが激しくなる。

これがバブルの基本メカニズムです。

今回のバブルには3つの特徴があります。

第一は、「エブリシングバブル」と呼ばれるほど、投機があらゆるものに及んでいることです。

原油や穀物などの商品に加え、株式、大都市の不動産、暗号資産にいたるまで、あらゆる投資対象が一斉に値上がりしているのです。

第二は、バブルが長期間続いているということです。

例えば、シラーPERという株価の割高指標があります。

これが25倍を超えるとバブルとみなされるのですが、米国株はすでに94カ月もバブル状態を続けています。

ちなみにITバブルの時は79カ月、リーマンショック直前のバブルは52カ月で崩壊しました。

今回のバブルがいかに長期間続いているか分かるでしょう。

第三の特徴は、山が高いことです。

米国株のシラーPERは、39倍まで上昇しました。

これはITバブルの時に記録した44倍に次ぐ史上第2位の数字です。

米国株の下落リスクは高い

それでは、今回のバブルは、いつまで続くのでしょうか。

「バブル崩壊の時期を予測することは誰にもできない」というのが、これまでの研究の成果です。

ただ、バブルは必ず崩壊しますし、私は崩壊の時期は近いと考えています。

崩壊のきっかけは、金融引き締めになるでしょう。

アメリカの3月の消費者物価指数は前年比で8.5%も上昇しています。

このインフレを抑制するためにアメリカの中央銀行は、すでに金利の引き上げに入っています。

そして、早ければ6月にも資金供給量の削減に踏み切る見通しです。

投機資金の源泉となった「じゃぶじゃぶの資金」が減っていくのですから、当然、投機は沈静化していきます。

ただ、その際、株価が適正価格に戻っていくだけで済む可能性は小さく、私はオーバーシュート(※)して下がっていくと考えています。

今回の株価バブルを生みだした最大の仕掛けは、コール・オプションだといわれています。

例えば、いま千円の株があったとします。

その株を将来の一定時期(満期日)に千円で買う権利をコール・オプションといいます。

その権利の価格が百円だったとします。

仮に満期日に株価が2千円に値上がりしていたら、権利を行使してその株を千円で買い、すぐに2千円で売ります。

オプションの代金として支払った百円が10倍になって戻ってきます。

もし株価が下がっていれば、買う権利を放棄すればよいので、損失は百円で済みます。

株式投資というより、完全なギャンブルです。

株価が順調に上がっているときは、コール・オプションで手持ち資金をハイスピードで増やすことができます。

ところが、株価が下落トレンドになったら、何が起きるでしょうか。

投機家は、今度はプット・オプションという株を売る権利を買います。

そのことで、株価が下がるほど儲けることができるからです。

そうなると、売りが売りを呼んで、株価はどんどん下がっていきます。

それがオーバーシュートの原因になるのです。

なぜこんな話を延々と書いているのかというと、老後の資金を米国株あるいは米国株を含む投資信託で運用している人は、数年以内に大きな下落のリスクに直面する可能性が高いからです。

一度バブルが崩壊すると、そこから立ち直るには、長い期間が必要になります。

若い人と違って、中高年には次のバブルを待つ時間的余裕がありません。

ですから、私はいまこそリスク資産を減らして、預金などの安全資産に移すべきだと考えています。

幸か不幸か、いまは20年ぶりの円安ですし、株価も高いので、多くの人が利益を確定できるのではないでしょうか。

老後資金の運用は手堅くというのが大原則なのです。

※相場が過剰反応して、売り、買いのいずれか一方向に行き過ぎてしまうこと。

※この記事は5月9日時点の情報を基にしています。

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森永卓郎(もりなが・たくろう)

1957年生まれ。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。東京大学卒業。日本専売公社、経済企画庁などを経て現職。50年間集めてきたコレクションを展示するB宝館が話題。近著に、『長生き地獄にならないための 老後のお金大全』(KADOKAWA)がある。

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『なぜ日本経済は後手に回るのか』

(森永 卓郎 森永 康平/KADOKAWA)

新型コロナウイルス感染症によって生じた日本経済の失速。その原因は長年続いている「官僚主義と東京中心主義」にあると、森永さんは分析します。では今後どうすれば感染拡大を抑え、経済的苦境を脱することができるのか――。豊富な統計やデータを基に導き出された、未来への提言が記された一冊です。

この記事は『毎日が発見』2022年6月号に掲載の情報です。

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