2025年には65歳以上の5人に1人は認知症になるといわれています。将来、判断能力が低下したとき、私たちの生活を守る方法の一つが「成年後見制度」です。成年後見制度の目的は、判断能力が衰えた人の財産管理や身上保護(生活や医療・介護の手続きを行うこと)です。地域後見推進プロジェクトを進める東京大学大学院教育学研究科教授の牧野篤先生にお話を伺いました。
前の記事「成年後見制度はどのように利用されている? 具体例を見てみましょう(2)」はこちら。
成年後見制度の改革が進行中
成年後見制度は後見人の人材不足や、後見人による不祥事など制度利用のしづらさの問題があります。そこで、厚生労働省は2023年を目標に、利用者にとってよりよい制度となるよう改革を進めています。改革の目玉となるのが地域ごとの「中核機関」の設置です。
中核機関が中心となって本人に身近な親族、福祉・医療・介護の関係者、地域住民、後見人などがチームとなり、日常的に本人を見守り、本人の意思や状況に応じて対応しようというものです。
「親族後見人を支援したり、利用者などの相談に応じたり、本人の権利が擁護されない場合は後見人の交代を促すなど、取り組みの核となります」(牧野先生)
また、人材不足対策として、一般市民を担い手とする「市民後見人」の育成が期待されています。
「専門職は多くの報酬の支払いが必要になり、また多忙な方が多いため身上保護という点ではきめ細やかなケアを期待することが難しい状況です。市民後見人では報酬の支払いが抑えられ、手厚い身上保護と事務的ではない人と人との関係作りが期待できます。なお、親族後見人は報酬を求めない人が多いようです」(牧野先生)
今後需要が増す成年後見制度。どのように変わっていくか私たちも見守り、参加することが求められているようです。
「成年後見制度」のギモンQ&A
成年後見制度の利用を考えるに当たり、いろいろ疑問が出てきます。どのように利用できるの? 後見人の横領が多いって聞くけれどどうしたら防げるの? 後見制度は一度利用したらやめられないって本当? そんな疑問にお答えします。
Q.成年後見制度の利用方法を教えてください。
A.本人の住所地の家庭裁判所に、申立書や診断書などの必要な書類を提出して申し立てます。その後、後見人候補者の適性等の調査や、本人の判断能力の鑑定手続きなどを経て決まります。開始までの期間は個々の事案により異なりますが、おおむね1~2カ月です。なお、任意後見では家庭裁判所ではなく、公証役場であらかじめ本人が選んだ代理人と任意後見契約を結びます。判断能力が不十分になったときに、任意後見人が業務を行います。
Q.後見人による不正はどうしたら防げますか?
A.後見人に適切に財産管理をしてもらうため「後見制度支援信託」の利用が増えています。本人の財産のうち日常生活に必要な分を預貯金などとして成年後見人が管理し、通常使用しない分を信託銀行に信託する仕組みです。
Q.後見人への報酬が支払えない人は利用できないのでしょうか?
A.身寄りがない人、生活保護受給者、預金・収入がない人の中には、後見人へ報酬を支払えないケースがあります。その場合は、自治体により成年後見制度利用支援事業から、全額または一部助成金が支払われることがあります。
Q.成年後見制度以外の方法はありますか?
A.社会福祉協議会の「日常生活自立支援事業」では利用者との契約に基づき、福祉サービス利用手続き、金銭管理や重要書類の保管などを行います。ただし、支援内容に制限があり、成年後見に比べ重大な行為はできません。
Q.成年後見制度の利用は途中でやめられる?
A.本人の判断能力の回復など正当な理由が認められれば、利用をやめられる場合があります。
Q.後見してくれる親族はいませんが、専門職は避けたいときはどうすればよい?
A.最近は市民後見人の育成が進められています。市民後見人とは研修などにより後見制度の知識を身に付けた一般市民の後見人のこと。多忙な専門職とは異なり、きめ細やかな身上保護を期待できます。ただし、申し立てても必ず選任されるとは限りません。
取材・文/中沢文子