生きていると、何回か相続を経験する可能性があります。一般的には夫の両親や自分の両親、そして配偶者などの相続です。この相続によって、それまで家族関係に何ら問題なかった親族、あるいは兄弟姉妹の関係が一変することが多々あるようです。つまり、もめるのです。
少しでももめない相続にするにはどうすればいいのか、相続問題に詳しい税理士の板倉京先生にケース別にアドバイスを伺いました。
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◆ケース2
母親が認知症となり成年後見人が必要になった
【相談内容】
父親が亡くなり、認知症の母親と兄妹で相続することになりました。認知症になる前の母親は「相続のことは好きにしなさい」と言っていたのですが、そういうわけにもいかず「成年後見人」を選んでいました。速やかに相続の手続きをしたいのですが、成年後見人がいると何か不都合がありますか。
【先生のアドバイス】
成年後見人は、家庭裁判所が選びます。親族以外に、法律・福祉の専門家などが対象です。通常、事務費用の目安は月2万円、財産が1000万円以上では月3~6万円です。子どもなどが成年後見人になった場合、遺産分割を行うためには、相続人以外の第三者を「特別代理人」として選任する必要があります。
認知症などの理由で判断能力の不十分な人は、預貯金などの財産管理や遺産分割協議をする必要があっても難しい場合があります。このような人たちを保護するために「成年後見制度」があります。成年後見人を利用すると財産は保全されますが、自由に動かせなくなるのでよく検討してみましょう。ただ、悪徳商法などに引っかかりやすい人、子どもとの関係が良好でない人などには効果があります。
◆ケース3
夫亡き後、義父が遺産を請求してきた
【相談内容】
会社を経営していた夫を病気で亡くした専業主婦の俊子さん。子どもがおらず、夫には兄弟がいるので、財産は妻に全部あげるという遺言書を残していました。親の遺留分(法律上、決められている相続できる最低限の財産)については放棄するようにと明記されていましたが、法的拘束力はありません。案の定、義父が夫の財産を請求してきました。
今後の生活を考えると、妻はお金が幾らあっても足りない状況です。そんなことも全て承知している義父から、夫が残してくれた財産について請求されるとは思ってもいませんでした。義父としては、家をリフォームしたいという希望があり、正さんから少し援助してもらうつもりでいたようです。俊子さんから、遺言の内容を聞いたときには激怒していました。
【先生のアドバイス】
遺言書があってももめるのですから、遺言書がない場合はなおさらです。今回のケースも、義父には遺留分を支払うことで決着できます。子どもがいない夫婦は、夫が亡くなると、血のつながらない義父などと遺産をとりあうことになってしまいます。お互いに遺言書を書いておくといいでしょう。
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取材・文/金野和子
板倉 京(いたくら・みやこ)先生
税理士。女性開業税理士で組織された㈱ウーマン・タックス代表。相続・贈与等個人資産に関する税務・保険が得意。講演活動も行う。著書に『夫に読ませたくない相続の教科書』(文春新書)などがある。