中高年が被災する「経済的打撃」は甚大...。森永卓郎さん「災害に強い家に住む」メリット

定期誌『毎日が発見』の森永卓郎さんの人気連載「人生を楽しむ経済学」。今回は、近年の異常気象や大規模な水害を目の当たりにした森永さんが考えた「災害に強い家に住む」についてお届けします。

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異常気象の被害は、日本が最も深刻

7月上旬の豪雨は、全国の平均降水量が10日間で216mmと、過去最多を記録しました。

全国各地に大雨の被害が出ましたが、特に九州や中国地方は被害が大きくなりました。

河川の氾濫で、多くの家が浸水し、流されてしまった家や土砂崩れに巻き込まれた家もありました。

原因は、常識では考えられないほどの雨量をもたらした線状降水帯の発生でした。

数十年に一度しか発令されないと言われる大雨特別警報が、今回、多くの県で出されましたが、例えば福岡県に大雨特別警報が発令されたのは、今年で4年連続です。

昨年12月には、熱波や干ばつ、洪水などによる世界各国の被害を分析しているドイツの環境NGO「ジャーマンウオッチ」が、2018年に異常気象によって世界で最も深刻な被害を受けたのは、「日本」だったとする分析を発表しました。

西日本豪雨や、台風21号、そして埼玉県熊谷市に41・1度と観測史上最も高い気温をもたらした猛暑を理由にあげています。

なぜ、こんなおかしな気候になってしまったのでしょうか。

最大の原因は、地球温暖化だと、私は考えています。

地球温暖化によって海水温が上昇し、そこから放出される大量の水蒸気が、大雨をもたらす雨雲を作っているのです。

だから、地球温暖化を阻止しないと、今後ますます水害のリスクが高まっていくことになります。

しかし、残念ながら、そうなってしまう可能性が極めて高いのです。

国連環境計画(UNEP)が2019年11月26日に発表した年次報告書で、2018年に排出された温室効果ガスが過去最高の553億トンとなったことが明らかになりました。

世界の平均気温を産業革命前と比べて1・5度以下の上昇にとどめるというパリ協定の目標を達成するためには、温室効果ガス排出量を2030年まで毎年7・6%ずつ削減する必要があるのですが、現実には、温室効果ガス排出量は、この10年間で、逆に15%も増加しています。

しかも、温室効果ガス排出量削減の取り組みには世界各国の一致した協力が不可欠なのですが、世界2位の排出国である米国のトランプ政権は、パリ協定からの離脱を表明しています。

世界が足並みを揃えられないのですから、温暖化の進行は避けられません。

そうなると、私たちは、水害の拡大を覚悟して、より安全な場所に住まないといけなくなります。

ただ、現実の住居選択は、そうはなっていないのです。

リスクを把握できるハザードマップ

7月15日の『AERA』電子版が、興味深い分析を載せています。

1995年から2015年までの20年間で、洪水浸水想定区域に住む人の割合が、都道府県別にどれだけ増えたかという数字です。

全国では+4・4%の上昇でしたが、特に比率が上がったのは、基本的には大都市です。

例えば、東京+15・3%、千葉+5・7%、神奈川+17・4%、埼玉+7・1%といった具合です。

そうしたことが起きるのは、明らかに東京一極集中によって住宅が足りなくなり、水害のリスクが高いところで住宅建設が進んだことの結果です。

だから、同じ大都市でも、大阪は+0・1%とほとんど増えていません。

一方、今回大きな水害にあった熊本は+1・5%、広島+11・5%、岡山+12・8%、鹿児島+4・6%、島根+3・5%と、地方でも増えています。

こうした地域で洪水浸水想定区域の人口が増えた理由は、もともと利用できる平地の面積が少ないことや、かつて起きた水害の苦い記憶が薄れて、あまり意識することもなく、リスクの高い地域に住宅を建設することが増えたからでしょう。

ただ、やはり住宅は水害の恐れがない場所に建てた方がよいと、私は思います。

若いうちならともかく、中高年以降だと、家を流出させたり、そこまで行かなくても、床上浸水してしまうと、ローンを借りての住宅の再建築や大規模リフォームというのが、経済的にむずかしくなってしまうからです。

実は、今回の水害で、はっきりと分かったことが、一つあります。

それは、自治体が作成するハザードマップが、かなり正確だということです。

浸水地域のほとんどが、ハザードマップで、浸水のリスクを指摘されていた地域だったのです。

水害は、川沿いはもちろんのこと、細かな起伏の影響を受けて、川沿いでなくても、起きます。

だから、家を買ったり、建てたりするときには、ハザードマップをきちんと確認してからにしましょう。

私がいまの家を買ったのは27年前、36歳のときでした。

前の家の近くに、いまの家を建てたのですが、そのときは、水害のことを考えて小高くなっている土地を買いました。

そのせいで、駅からは少し遠くなってしまいましたが、これまで一度も浸水の心配をしたことがありません。

妻はこう言っています。

「ここは東京みたいに楽しいところはどこにもないけれど、安全であるところだけは、とてもいいよね」。

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森永卓郎(もりなが・たくろう)
1957年生まれ。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、経済企画庁などを経て現職。50年間集めてきたコレクションを展示するB宝館が話題。『親子ゼニ問答』(角川新書、共著)など著書多数。

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『親子ゼニ問答 (角川新書)』

(森永 卓郎 森永 康平/KADOKAWA)

「老後2000万円不足」が話題となっていますが、「金融教育」の必要性を訴える声が高まっています。ですが、日本人はいまだに「お金との正しい付き合い方」を知らない人が多いようです。経済アナリストの森永親子が「生きるためのお金の知恵」を伝授してくれる、話題の一冊です。

この記事は『毎日が発見』2020年9月号に掲載の情報です。

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