定期誌『毎日が発見』の森永卓郎さんの人気連載「人生を楽しむ経済学」。今回は、森永さんが
10万点の庶民のグッズをコレクション
いつかは、自分の博物館を作って、多くの人に見てもらいたい。
コレクターの大部分が言うセリフです。
私も、そのなかの一人でした。
私は、いまから50年前、父のオーストリアへの赴任がきっかけで、ミニカーを集めるようになりました。
現地の公立小学校に転校したのですが、言葉もしゃべれず、友達もできない私のことを不憫に思ったのかもしれません。
それまで、誕生日とクリスマスにしか買ってくれなかったミニカーを、在外赴任手当で懐が豊かになった父が、毎日のように買い与えてくれたのです。
おかげで、小学六年生で帰国した時には、私のミニカーコレクションは、1千台を超えていました。
その後も、コレクションするアイテムが、コーラの空き缶、グリコのおまけ、ウォークマン、消費者金融のティッシュなどと、爆発的に拡大し、総勢60アイテム、10万点という巨大なコレクションになりました。
そのコレクションを多くの人に見てもらいたいと、いまから6年前、56歳のときにB宝館という名の私設博物館をオープンさせました。
B宝館のBは、B級で、ビンボーで、おバカだけれど、ビューティフルのBです。
普段の暮らしのなかで捨てられてしまう庶民のグッズを、ひたすら並べていくというのがコンセプトです。
博物館は、家の近くの中古のビルを1億2000万円で買って、内装工事と棚の設置に6000万円かかったので、総投資額は1億8000万円になりました。
投資が大きいのは、200坪という大きな床面積が必要だったからです。
オープン前は、収支トントンまで行くといいなという淡い期待を持っていたのですが、開館直後にその期待は崩れ去りました。
毎週土曜日に開館したのですが、月間の入場者が100人くらいにしかならず、売り上げが年間100万円に対して、コストがスタッフの人件費や電気代、減価償却費、固定資産税などで1000万円もかかったからです。
その分は、私が全国を講演やイベントで飛び回る「出稼ぎ」で穴埋めしました。
ただ、2年前からは、スタッフが辞めたのを機に、毎月第一土曜日だけの開館と、営業日を減らしました。
それでも赤字は400万円くらい出ています。
固定資産税だけで200万円くらいのお金が出ていくからです。
黒字化の手立てをアドバイスしてくれる人も、何人かいました。
実際、私設博物館で黒字経営をしている人は、何人もいます。
ただ、そうしたところを見学に行くと、需要側の論理に則った経営が行われているのです。
展示物は、普通の人が喜ぶような楽しいものが並べられています。
来客向けの飲食スペースやアミューズメントがあり、そしてオリジナルのグッズが販売されているのです。
私は、そうしたスペースを作るのなら、もっといろいろなグッズを展示したいと考えてしまうのです。
ビジネスをしたいからではなく、私の感性に訴えたグッズを見せたいからです。
〝住み開き〟が人の縁を作り生きがいに
自分のやりたいことだけをやっていたら、商売にはならない。
単純に言うと、そういうことなのですが、私は一つだけ致命的な失敗をしたと思っています。
それは、私のような博物館をやるのであれば、自宅の敷地内でやるべきだったということです。
最大の理由は、固定資産税です。
住宅の敷地は、固定資産税が6分の1に減免されます。
だから、家にコレクションの展示施設を作れば、固定資産税の負担が大幅に減るのです。
実は、私は最近まで知らなかったのですが、そうしたことをしている人はたくさんいました。
アサダワタルという人が『住み開き増補版─もう一つのコミュニティづくり』(ちくま文庫)という本のなかで書いているのですが、さまざまな人が博物館を自宅のなかに作って、そこに人を招き入れているのです。
住み開きは、博物館だけではありません。
シェアハウス、シェアオフィス、セミナーハウス、ライブハウス、画廊、水族館など、実にさまざまな住み開きが行われています。
住み開きをすると、必ずそこにコミュニティが生まれます。
そこで、自分がどのような表現者となるのかというのが、その人の生きがいにつながるのです。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う自粛期間は、晴れた日は畑で農作業、天気の悪い日は、博物館で未展示になっていたグッズを展示ケースに並べる作業をずっとしていました。
晴耕雨博物館です。
郊外に家を買って住み開きをすれば、庭で野菜を作ることができるので、同じことをすべて自宅内で完結することができます。
こんな効率的なことは、ありません。
自粛期間にすることがなくて、暇を持て余してしまった人は、一度住み開きを考えてみてはいかがでしょうか。
そこから生まれるコミュニティは、老後もずっと人生を輝かせてくれると思います。
もちろんその前に、まず「自分は何をするのが楽しいのか」ということを発見しなければなりません。
それは、そんなにむずかしいことではないと思います。
とりあえずやってみて、合わないと思ったら、さっさと次に行けばよいからです。