森永卓郎さん「金投資を考える」/人生を楽しむ経済学

定期誌『毎日が発見』の森永卓郎さんの人気連載「人生を楽しむ経済学」。今回は、高値を更新する金相場について、森永さんの考察を伺いました。

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20年で8倍に上昇した金の価格

金価格が史上最高値を更新し続けています。

金地金の1g当たりの小売価格は、8月に約7800円に達しました。

実需が増えたわけではありません。

むしろ、世界的なコロナ不況で、宝飾品の販売は激減しています。

それなのに金の価格が上昇しているのは、安全資産としての金の価値が評価されているからです。

株式の場合は、会社が倒産すると紙屑になりますが、金は、経済がどうなろうと、金のままだと考える人が増えているのです。

ただ、20年前の金価格は、1g1千円でした。

20年で8倍になるのは、ちょっと上がり過ぎだと私は思っていたのですが、もっと値上がりするとみている人が多いようです。

それは、金の希少性が高まっているからです。

これまで人類が獲得した金の採掘量は約18万トンで、50mプール3・8杯分です。

そして、残された埋蔵量は5万トンで、プール1杯分しかありません。

金の採掘はどんどん難しくなっています。

170年前にカリフォルニアでゴールドラッシュが起きた時には、川底の砂から、普通に砂金が採取できました。

ところが、そうした金は採り尽くされて、残っていません。

私は、ケーブルテレビで『ベーリング海のゴールドラッシュ』という番組を毎週見ているのですが、凍結したアラスカの海に穴を開けて、潜水をし、海底の金を採掘するという命がけの作業をしています。

それでも、なかなか金脈に遭遇できないのです。

そうした様子をみていると、金価格が高くなっても仕方がないのかなと思います。

ただ、投資用の資産として考えると、金にはさまざまな問題があります。

一つは、盗難のリスクです。

金製品は、潰して地金に戻して、転売することが可能なために、窃盗犯にとって格好の獲物になります。

実際、竹下内閣がふるさと創生事業で全市町村に1億円を交付した時に、多くの自治体がその資金で金を買い、展示しました。

ところが、岐阜県墨俣町(現大垣市)、高知県中土佐町、大分県中津江村(現日田市)などでは、盗難の被害に遭ってしまったのです。

銀行に貸金庫を借りていれば、ある程度安全ですが、自宅に金地金を置いておくことは、おすすめできません。

税金面では有利とは言えない

一方、貴金属販売店が「純金積み立て」という商品を販売しています。

これは、月3千円程度からの金額で、毎月金を買っていく方法です。

この方法だと、金の現物は、保護預かりになっているので、盗難の心配がありません。

私自身はやっていないのですが、亡くなった父がこの純金積み立てをしていました。

父が亡くなった後、私は口座をすぐに解約して、入金された金額そのままで、相続税の申告をしました。

ところが、しばらくして税理士から電話がかかってきました。

別途、売却益の申告が必要だと言うのです。

父が亡くなった時点で、金価格が上昇していたため、その売却益にも課税されるというのです。

私は、「売った時の値段で相続税を支払っているのだから、売却益にも課税するのは、二重課税ではないか」と税理士に言ったのですが、「それがルール」ということで、売却益の税金も払う羽目になりました。

実は、株式や投資信託と比べて、金投資の利益は不利な扱いを受けています。

株式や投資信託は、分離課税で、利益の20.315%を支払えば納税が完了します。

しかし、金投資の場合は、売却して利益が出た場合には、売却益に応じて所得税・住民税が課せられます。

通常は、金の売却益は「譲渡所得」とみなされ、ほかの所得と合算して課税されます。

所得がある程度高い人にとっては、税負担が証券投資より大きくなります。

また、年金生活者の場合でも、所得が増えると、社会保険料が増えたり、一部の行政サービスが無償で受けられなくなったりします。

ただし、譲渡所得には50万円の特別控除がありますから、売却益が50万円以下なら税金はかかりません。

また、金を売却した場合、売却金額が200万円を超える取引については、買取業者は支払調書を税務署に提出することになっていますので、200万円を超える取引は確実に捕捉されます。

以上のことを考えると、金投資を大規模にやることは、必ずしも有利になりません。

そのため、あまり高額ではない金製品を楽しみとして買って、いざという時に備えておくというのが、現実的な方法だと私は思います。

リサイクルショップに宝石を持ち込んでも、一般的には、買った時の値段より大幅に安い金額でしか買い取ってもらえません。

ところが、金だけは、地金の価格にリンクした金額で買い取ってもらえます。

純金でなくても、18金などでも大丈夫です。

金の指輪やネックレス、金貨、あるいは金でできた置物などが、思わぬ高値で引き取ってもらえるのです。

小型の金地金の場合は、さらに高い値段で引き取ってもらえます。

もちろん、盗難のリスクは残りますが、いつまでも輝きを失わない金は魅力的な貴金属なので、少しだけ持っておくのが、良いのではないでしょうか。

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森永卓郎(もりなが・たくろう)
1957年生まれ。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、経済企画庁などを経て現職。50年間集めてきたコレクションを展示するB宝館が話題。『親子ゼニ問答』(角川新書、共著)など著書多数。

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『親子ゼニ問答 (角川新書)』

(森永 卓郎 森永 康平/KADOKAWA)

「老後2000万円不足」が話題となっていますが、「金融教育」の必要性を訴える声が高まっています。ですが、日本人はいまだに「お金との正しい付き合い方」を知らない人が多いようです。経済アナリストの森永親子が「生きるためのお金の知恵」を伝授してくれる、話題の一冊です。

この記事は『毎日が発見』2020年10月号に掲載の情報です。

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