<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男
年齢:58
プロフィール:大学を出た息子(23)は実家を離れたまま就職しました。独り立ちして安心していたら暗雲が立ち込めてきました。
24歳の息子は何を考えているのか分からないところがあり、いつの間にかさまざまなことを決めて動いてしまいます。
大学に入った時も、親には何の相談もなく映像系の大学のAO入試を決めていて、親が知ったのはその面接に出掛けるという日でした。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
そう言ってとぼけた顔で家を出て、結局そのまま合格してしまいました。
高校の頃から粘土を使ったコマ撮りのアニメなどを作っていたので、好きなのは知っていましたが、そういう道に行きたいのかとその時に改めて聞いてみました。
「いや、そうでもないけど、どうせ大学行くんなら楽しそうな方がいいなと思ってさ」
...大学に行くのは進路のためと思っていた私や妻(56)は、自分達と根本的に違う感覚に呆然としたものです。
とはいうものの、せっかく専門の大学に入ったのだから、きっとそういう道を選ぶのだろうと思っていたら、3年生になって会社訪問で訪れるのは大学の近くの地方企業ばかりでした。
「放送局とか受けないのか?」
「狭き門ですよ、パパさん。まあ仕事は仕事ですから堅実にね」
などと言って、結局食品系の営業職で就職を決めてしまいました。
まあ、それでも独り立ちして、自分の才覚で生活を始めたのだから良しとするか、と思っていましたが、息子は社会人2年目で、このコロナ禍にぶち当たりました。
外回りの営業はほとんどできず、外食業の不振をもろに受けて息子の会社もかなりの苦境に立たされたようです。
「まあ、何とかクビにはならずに済みそうだけどね...」
落ち込んだ声の電話を何度か受けました。
そんな中、先日かかってきた電話では妙にまじめな声でした。
「パパさん、相談があるんだけど...」
「なんだ? 金でも借りたいのか?」
「いや、それもないわけではないけど...俺さ、仕事辞めるかもしんない」
「はあ!?」
寝耳に水とはこのことです。
「いやさ、大学で世話んなった先輩がね、ネットで流す動画を制作する会社を興すらしいんだよね」
「えっと...それで?」
「それでさ、一緒にやらないかって声かけられちゃって...」
就職の時には候補にさえ上がらなかったメディア系の、しかもまだ起業さえしてない会社に転職しようということのようです。
「いや、でもお前、あてがある話なのか?」
「そこだよね。とりあえず収入が無くなっちゃうわけだしねえ、まあ、仕事の見通しはいくつかあるって話なんだけどさ」
「それだって続くかどうか分からんのだろ?」
「まあね、でも今の仕事もなんかお先真っ暗な感じだしね...」
仕事に行き詰っている所にわいて出た話で、やけぼっくいに火が点いたというわけなのでしょう。
「一時の気の迷いじゃないのか? 今の仕事も続けられないってわけじゃないんだろ?」
「そうかもしんないけど、でもさあ、なんかロマンを感じちゃって...」
「ロマンで食えるなら苦労はしないぞ」
息子も心を決めているという段階ではありません。
やりたいことをやらせてやりたい気持ちもありますが、この就職難の時期に、せっかくの定職を見限るのが得策とは思えません。
「まあ、もうちょっと考えてみるよ...もしもの時にはまた相談に乗ってくださいな、パパさん」
そう言って電話は切れました。
その後、特に動きはないようで電話はかかってきません。
こちらからどうなったか聞くのは恐ろしくもあり、不安を募らせながら見守っている所です。
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