<この体験記を書いた人>
ペンネーム:まなやさん
性別:女
年齢:51
プロフィール:51歳専業主婦。当家は息子で二十代目になります。8年前に亡くなった父の話です。
80歳の頃、養護老人施設に入所していた父が終活を開始しました。
元来几帳面な父は、実家の土地問題に始まり、お中元お歳暮のやりとり、年賀状までいろいろなことを心配していました。私にもよく終活の内容を話してくれましたが、必然的にお金に関する話題をすることに。
秘書として74歳まで現役で働いた父。
早朝から深夜まで頭と神経をすり減らす姿を見て、私は父を尊敬していました。その思いから、お金の話になった時にはこう伝えました。「葬儀にかかる費用200万円を残しておいてくれたら、あとは全部好きに使っていいよ」。
父は「200万かぁ~、死ぬのも金かかるなぁ」と笑っていました。
でも、その時、私は戒名(法名)のことをすっかり忘れていたんです。
生前父は「戒名なんていらないから。なんならお前がつけてくれ。お前が生まれた時は俺が付けたんだから、今度はお前が付けるといい」といっていました。
「俺うまいこと言うだろ?」と言わんばかりの顔をして笑っていた父。
でも、代々続く旧家の長男に戒名がないなんてことになったら、口うるさい大勢の親戚に何と言われるかわかりません。
ですが父は頑なに「戒名はいらない」といっていました。
そんなある日、親戚たちが父の施設にお見舞いにきてくれました。
父のベッドを囲み、「あの世の名前」だとか先に逝った人の戒名の話で盛り上がっています。
長いとか高いとか、祖先が長い名前だと急に短くできないとか、親戚たちは好き勝手なことを父に吹き込んでいます。
私でさえ父に戒名の話をするのは気が引けるのに、無神経に語る親戚に耐えかねて、つい私は言ってしまいました。
「こうします! 祖先が立派なあの世の名前を付けていただいていても、父は普通の戒名を付けてもらいます! それで、もしあの世で、たいそうな名前がついてる人はこちらの列にどうぞ~とご飯が美味しい物をもらえたり、先にご飯がもらえたり、並ばなくてもよかったりという特別扱いをされるのであれば、私の夢枕に戒名変えてくれと出てきてお知らせして! そしたらお寺さんに言って、メチャメチャ長い戒名付け直してもらうから!」
皆腹を抱えて笑っていました。
しかし、その爆笑を鵜呑みにしてはいけません。
本当にそんなことをしようものなら、後から寄ってたかって「兄さんの娘、本当にみっともないことをした!」と批判されるに違いないからです。
その後父は亡くなり、結局戒名は菩提寺で付けてもらうことに。
祖先とのバランスがあるらしく、それなりの戒名を付けていただいきました。
最後まで戒名はいらないといっていた父は、当然のようにその費用は残さず、自分の葬儀費用だけを残して旅立っていきました。
親戚の目を気にするより、父の希望を叶えたほうがよかったのだろうか......と思う日々です。
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