部下にとっての「最恐の上司」とは?
以前、学生たちと「どんな上司が一番怖いと思うか」について議論を重ねたことがある。
世の中には、理想の上司像や、避けたいと思う上司像に関するアンケートはよく見るが、怖い上司像というのはあまり存在しない。
ということで、学生たちを集めて検討した。4限(4コマ目)の終わりに、空き教室を確保して、椅子と机を動かして。お菓子を買い込んで。
簡潔に結果を見ていこう。
真っ先に出たのは「怒る上司」だった。
それに続いたのが「気分屋。機嫌がコロコロ変わる上司」。
まだちょっと物足りない。僕はもっと彼らの本音を引き出したい。学生が買ってきてくれたチョコパイを食べながら、とにかく質問する。
そもそも怖いって何だ?
「確かに。何だろう?」(全員)
「例えば金間先生は怖い側だよね(女子)」
「そうかなあ(女子)」
「いや、間違いない(男子)」
「でもチョコパイ食わせとけば大丈夫(男子)」
とか言っている。居心地が悪いので、質問を続ける。
そういえば、後輩も怖いんだっけ?
「それこそ間違いない(男子)」
「特に仲良くなる前。自分らより頭良さそうだから(女子)」
「金間先生」と「後輩」が怖いラインの同一線上に並ぶのは、全くもって合点しがたい。
しかもその対策が、金間先生→チョコパイ、後輩→仲良くなる、という結論にも納得しがたい。
そう思っている間に議論は進み、最終的に浮上したのは「最も怖い上司=頭のいい上司」だった。
どんなに人柄が良くて、普段は優しかったとしても、「頭のいい上司に、仕事中に話しかけるのは緊張する」というのがその理由。
ちなみに、学年や性差を考慮し、メンバーとお菓子をチェンジして実施した2回目の検討会も、ほぼ同じ結果になった。
その際の(2回目の)結論は「完璧な上司」。
理由は1回目とほぼ同じなので省略する。
なぜ完璧な上司が怖いのか
今、「(頭のいい上司に)仕事中に話しかけるのは緊張する」と書いたが、これは学生ならでは、というわけではないらしい。
101ヒアリングでは、「多忙そうな上司に対し、口頭で報告したほうがよさそうな案件があるとき、あなたはどうするか」という問いを立てた。特に若手の回答には次のような例があった。
・報告したい案件があるので、上司から声をかけてもらうようメール(チャット、メッセージを含む)をする
・今、報告してよいかメール(チャット、メッセージを含む)をする
・どのようなタイミングで行くのがいいか、先輩に確認する
仕事のわりにはずいぶん遠回りだ。
もちろん「すぐに報告する」という人もいたが、明らかに少数だ。印象としては、特に1つ目を選ぶ人が多かった。
僕は問いの中に「多忙そうな上司に対し」と、あえて1つ壁を設けたが、これを取り除いたとしても、似た結果になっただろう。そもそも人は、何かをしているだけで(例えばスマホを見ているだけでも)忙しそうに見える。
この話、きっと上司や先輩であるあなたも、部下と似た態度を経験しているのではないかと推測する。そんな態度を見てるから、「いつでも来ていいからね」と、あえて伝えておいたりして。
僕は皆さんと会ったことがない。
でも僕が想像するに、部下から見たあなたはきっと優しい。気分屋でもない。
それでもなお、若手があなたに報告するのをためらう理由は何か。
それは、あなたが「優しくないから」でも「気さくじゃないから」でもない。
それは、あなたが「ちゃんとした上司」だからだ。ちゃんとした上司は頭が良くて完璧だ。だから部下は、とにかくチェックされるということで頭がいっぱいになる。それだけでもう「怖い」と感じる。
あなたがどんなに開放的で、オープンな空気を作っても、仕事となればきっと関係ない。
だから若手は「報告に行くのは怖いので、向こうから来てほしい」と言う。
「何を甘いことを」と思う読者も多いかもしれないが、僕は(本書全体を通して)若者の立場でものを言っている。
自分からは動かず、とにかく待つ。締切りが来ても、話しかけられるか、メールをもらうまで待つ。
すぐドアの向こう側にいるのに、「報告したいことがあるので、お手すきの時にお声がけ下さい」とメールを入れる。
これがいい子症候群の若者の感覚だ。