双極性障害の治療後、長く続く抑うつ状態と向き合ってきた筆者。ネガティブな世界からのサバイバルをあと押ししたのは、意外にも簡単な7つの「行動」でした。2ヶ月ぶりの換気、10秒片付けからはじまる、抑うつ状態への行動療法、認知療法的アプローチの実践と記録に、「自分を好きになる」ためのヒントを探してみましょう。
※この記事は『自分を好きになろう うつな私をごきげんに変えた7つのスイッチ』(KADOKAWA)からの抜粋です。
前の記事「死んだようなスカスカな心を抱えて、ベッドに直行する日々。/自分を好きになろう(2)」はこちら。
【前回までのあらすじ:1章】
記者として東日本大震災の被災地取材を続けるうちにうつ病を発症。
のちに双極性障害の診断を受けて、2年間の休職と投薬治療後、社会復帰を果たした筆者。
それでも、喜びや悲しみ、意欲などの感情を取り戻すことはできずにいました。
いつのまにか、ゴミ屋敷に
そんなある日、電話が鳴りました。「親方」からでした。
「久しぶりだな。元気か?」
親方とは、2011年の東日本大震災の取材で出会いました。
福島第一原発に作業員を送る会社を経営していた親方は、私のひとつ年上です。150人もの従業員を抱えて災害を乗り切ってみせた親方のその生きざまを、私は前著『境界の町で』(リトルモア)で書きました。すごく頼りがいのある人で、取材で知り合った私のことも、常々気にかけてくれていました。
受話器から鳴り響く親方の声は、ハリがあって早口で、生命力にみなぎっていました。正直なところを打ち明けるのも気が引けたので、なんとなく「あ、ご無沙汰しています。元気ですよ」と返事しました。
すると親方はこう言うのです。
「元気? おめえ、全然元気じゃねえだろ。まだ、アタマの薬飲んでんのか? おめえよぉ、Twitterにあんなポエムみたいなこと書いてよぉ。もうすぐ40になる大人がすることじゃねーぞ。おめー、マジで大丈夫か!」
確かに私はTwitterに「毎日がつらい」「孤独をかみしめている」「これから先、私はどうしたらいいのだろう」みたいな、心の迷いを連日投稿していました。
「あ。親方、私のTwitter見てたんですね。いや、ほら、ああいう愚痴って、聞くほうも疲れるでしょ。私、人が私の愚痴を聞いてうんざりしている顔を想像するのも怖いんですよ。だから、Twitterに書いてるんですよ。Twitterなら、誰にも迷惑かけないし」
「おめーは、またうつなのか」
「いやぁ、うつっていうか。それは治ったんですよ、もう。仕事にも復帰しましたし」
「治ってねえんじゃねえの。全然楽しくなさそうじゃん」
「そうですかね」
「そうだよ。そうだ。おめえんち、今、ゴミ屋敷だろ? 今、せんべい布団の周りがコンビニ弁当のカラで山になってるだろ」
図星でした。
「いや、私の家、ベッドなんで、布団じゃないです」
「そこじゃねえよ、ゴミだらけだろって言ってんの」
「ああ、まあそうですね。恥ずかしいですけど」
「オレよお、原発の仕事のあと、地震でもう使い物にならねえ家の解体の仕事やってるんだよ。狭い町だから、地震が来る前にどこの家にひきこもりがいたとか、どこの家にうつ病のやつがいたとか、町のやつらはみんな知ってるんだけど、そういう、メンタル病んでるやつの家壊しに行くと、決まってみんな、家の中がゴミ屋敷なんだよ。コンビニ弁当のカラが積んであって、雑誌が腐って床が抜けてるんだ。ペットボトルはハンパに飲み物が残ってて、全部腐って緑色でよお。おめえんちもそうじゃねえのか」
「うーん、まあ、腐ったペットボトルはないけど、近いですね」
「それ、片付けろよ」
「そうですよね。片付けたいんですけどなかなかモチベーションが......」
「ひとりでできねえなら、若えのそっちにやろうか? トラック持ってくから、ゴミ積んでってやるよ」
さすがに、今の部屋に人を入れることはとてもじゃないけどできないと思いました。うちにはねこが3匹いるのですが、ねこのトイレの周りの床には糞がこびりついていて、掃除をしないまま2ヶ月も経過していたため、においもありました。
人が見たら確実に「ドン引き」する部屋であることは間違いないのです。
「いや、それは大丈夫です。ていうか、誰か部屋に入れるために、ざっと掃除しないといけない感じなので。なんだろ、たとえて言えば服買いたいけど服屋に着ていく服がないみたいな状態っていうか......」
「それ、もう末期だな。ていうかよお、おめえ、病気のやつがやりがちなこと全部やってるだろ。Twitterには愚痴ばっかり書いてる、暗いことばっかり考えてる、ひとりでネットばっかしてるだろ。それと、部屋がゴミ屋敷。な? 化粧とかもしてねえだろ。風呂入ってるか?」
「......」
「そういうの、1個でいいからやめてみろよ。病気じゃないやつの真似してみろ。そうだな、オレの真似だな! オレの家はいつ来てもキレイにしてるだろ」
「確かに、ものすごく片付いてますよね」
「だから、片付けろ。じゃあな」
親方はほとんど一方的に話をして電話も唐突に切れました。
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