荒れた部屋は荒れた心を表す。この部屋の中にある「好き」を、自分に問いかけてみる/家族を救う片づけ

「今日こそ片づけよう」そう一大決心して部屋の片づけを始める人は多いはず。しかしなかなかスムーズに進まない...。もしかするとあなたが片づけられない理由は、片付け技術ではなく「心」の方にあるのかもしれません。

人気の空間心理カウンセラーが書き下ろした不思議な片づけ物語は、読むだけであなたの心を「片づけられる人」に変えるかも! 可愛い毒舌フェニックスによる「心も片づく魔法」にあなたもかかってみませんか?

※この記事は『毒舌フェニックスが教える 家族を救う片づけ』(伊藤 勇司/KADOKAWA)からの抜粋です。

前の記事「簡単な行動が人生を好転させる! 前向きな感情は行動についてくる/家族を救う片づけ(4)」はこちら。

 

荒れた部屋は荒れた心を表す。この部屋の中にある「好き」を、自分に問いかけてみる/家族を救う片づけ 人物紹介.jpg

 

後ろ向きな部屋に隠れていた「前向きな心」

ヒヨコを部屋に連れてきた僕、村上マモルは、気になっていたことをさっそく聞いてみた。

「心で話せるって、すごいよなぁ。なんでそんな能力があるの?」
「そんなものは、フェニックスだからに決まっているだろ」
僕が興味津々で質問をしているのに、つっけんどんな調子で答えてくる。そして答えにもなっていない。
「ところで、マモル! ユウコは俺様のことを、ピヨちゃんと読んでいる。お前も、ピヨちゃんと呼べ!」

どこまでも上から目線なヒヨコだが、それを言っても何も変わらなそうなので、僕はピヨちゃんと呼んでやることにした。
「わかったよ。じゃあピヨちゃん、さっきまでお母さんとどこ行ってたの?」
あんなに楽しそうな表情をしたお母さんは久しぶりに見た気がする。だから単純に、何が起こったのか気になっていたのだ。

「ああ、さっきユウコとカラオケ屋ってとこに行ったんだ。そこではユウコ、狂ったように大声で歌ったり踊ったりしていたけど、面白い場所だったなぁ」
お母さんは昼間からカラオケ屋に行っていたのか。いつもみたいにイライラ不機嫌でいられるよりはいいけど、自分だけ好き勝手やってるなんて、なんか理不尽だ。
「ところで、マモルは部屋で何やってるんだ? ここにずっといて、面白いか?」

部屋にこもっていて、面白いわけがない。ここにいるしかないからいるだけだ。

そんな僕の心を見透かしていたピヨちゃんは、さらに話しかけてくる。
「なんで仕方ないんだ? 面白くないなら、面白いことすればいいじゃないか」
学校を休んでいるのに、そんなことができるわけがない。ヒヨコだから人間の常識がわからないんだな。と、また心の中でつぶやいていたら、それも見透かしていたピヨちゃんが、質問を繰り出す。

「マモルは、何してる時が一番楽しいんだ?」

僕が一番楽しいこと。それはスマホでゲームをやることだろうか。いや、違う。それはただの、暇つぶしだった。そういえばいったい僕は、何をしている時が一番楽しいんだろう。
「うーん、何が楽しいのか、わかんないな......。ピヨちゃんは、何をしている時が一番楽しいの?」

考えても思いつかなかったので、僕は逆に質問した。
「今が一番楽しいに決まってるだろ! マモルと一緒にいるこの時間が、初めての連続、発見の連続だもん。すんごく楽しいよ!」

ピヨちゃんは、悩むことなく即答だった。
でも、なんで今が楽しいのかが、僕には理解ができない。別に、何かをしているわけじゃないし、ただ一緒にいるだけなのに。
「マモルといろんな話をしているだけで、楽しいんだよ! だって、一緒にいるだけで心が通じ合うじゃないか! すごく楽しいよね!」
僕が心の中でつぶやいていることは、ピヨちゃんには全部伝わっている。そして、今ピヨちゃんが言った言葉を聞いて、僕は心がピクリと動くのを感じた。
「心が、通じ合うことが、楽しい......、か......」

思わず声に出しながら、その言葉を嚙みしめていた。よく考えてみると、僕は今、誰とも心が通じ合っていないのかもしれない。だからこそ、ひとりで悩んで部屋にこもっているんだ。そう思うと、僕が今本当に求めていることは、誰かと心が通じ合うことなのだろうか。

「ピヨちゃん、心が通じ合うって、なかなか難しいよね......」
僕は思ったことを力なく言葉に出した。
「マモル、難しいことなんか、なんにもないぞ! 自分が心で思っていることを、そのまま出しちゃえばいいだけなんだからさ!」

それができれば苦労はしない。思っていることを言葉にすること、それが僕にとっては一番難しいことなんだ。
「そういえば、さっきユウコが面白いことやってたな。〝自分の心を歌に表現する〟ってこと。ところでマモルのこの部屋って、マモルのどんな心が表現されているの?」
ピヨちゃんにそう聞かれて、僕は改めて自分の部屋を見渡した。

勉強机の上には、本や小物が散乱している。飲みかけのペットボトルのジュースも床に落ちている。脱ぎっぱなしの服もある。本は床にも何冊か落ちていた。改めてまじまじと自分の部屋を見ると、かなり荒れていることに気づく。

「僕の......荒れた心を、表しているのかな......」
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自分の部屋の状態を見て、楽しい気持ちになれないのは明らかだった。ここ最近の悶々とした心境を表すかのような部屋だ。
「へー、そうなんだ。じゃあ、マモルは荒れた心でいることが好きなんだな」
「そんなわけないだろ!」
ピヨちゃんの意味不明な発言に、思わず僕はツッコんでいた。
「なんだよ! 好きだからやってるんじゃないの!? じゃあ、マモルはどんな心を部屋に表すのが好きなんだよ」

どんな心を部屋に表すのが好きなのか。そんな発想で考えたことなんてない。僕は思考停止状態になっていた。

「なんで何も言わないの? マモルがこの部屋で、好きなところはどこなんだ?」
ピヨちゃんは何も言えないでいる僕のことを不思議そうに眺めながら、どんどん質問を投げてくる。
「えっ......、この部屋で、好きなところ......。なんだろうな......」
そうやって部屋を歩きながら辺りを見渡すと、足に物がぶつかった。
「イタッ......、あっ、この本、昆虫図鑑か。これは、好きだよなぁ......」
僕は昆虫が大好きだ。昆虫は本当にすごい。何がすごいって、体は小さいのにすごい能力を持っているから。

タマムシなんて、キラキラした虹色でキレイな体をしているけど、これは体に色素がついているのではなく、複雑な構造をした透明な体に光が当たることで発色しているんだ。その性質が最新の科学で応用されて、色落ちしない商品として活用されているくらいだ。昆虫の世界は不思議がいっぱいで、知れば知るほど楽しい。
「僕、昆虫の本は大好きだよ」
そう言いながら、足元から拾い上げた昆虫の本をパラパラとめくっていった。

「そうか。マモルは、この部屋の中の昆虫の本が好きなんだな! ほかにも、昆虫の本はあるのか?」

ピヨちゃんにそう聞かれて、僕は机と本棚を探し始めた。

「えっと......、昆虫の本、昆虫の本っと......」
改めて探してみると、21冊も見つかった。中にはホコリをかぶっているものもあり、しばらく読んでいない本も多い。
「あっ、これ、懐かしいな。たしか小学校に上がる前の誕生日に、お母さんが好きなものを買っていいって言ってくれて、僕は昆虫の本を選んだんだ」

お母さんは虫が嫌いだから、僕が昆虫の本を欲しいって言うと、必死でゲームとか、おもちゃとか、何かほかのものに興味が向くようにあれこれ言ってた。でも僕は昆虫の本以外にぜんぜん興味が湧かなかったんだ。
「昆虫の本には、マモルのどんな心が表れてるんだ?」

懐かしい本を手にしてその頃のことを思い出していると、ピヨちゃんが唐突に質問をしてくる。
「えっ? この本に、僕のどんな心が表れているかって? そんなこと、考えたこともないよ......」
答えを出せない僕を、ピヨちゃんは不思議そうに眺めながら、さらに聞く。
「マモルは、何がきっかけで昆虫が好きになったんだ?」

昆虫を好きになったきっかけ? ......今まで考えたこともなかったけど、あれは幼稚園の時のことだったかな。その頃の僕はクラスで一番背が低くて、自分からは絶対に前に出ない、引っ込み思案な性格だった。

お母さんやお父さんと公園なんかに行くと、僕をみんなが遊んでいる輪の中に無理やり入れようとしたこともあったけど、僕はひとりで遊ぶのが好きだった。
ある日の幼稚園の外遊びの時間にやっぱりひとりで遊んでいる時、砂場の横の地面にアリの行列ができていることに気づいた。
「うわぁ、アリがいっぱい!」
感動した僕は、さらに注意深く観察していった。しばらく見ていると、小さなアリたちの中でもひときわ体の小さなアリが、その体と同じくらいの大きさの食料を運んでいるのを見つけた。
「えっ、こんなちっちゃい体で、どこにこんな力があるのかなぁ?」
僕は自分も体が小さかったから、小さいアリが力強く生きている姿に純粋に興味を持ったんだった。そしてこの日を境に、さらにいろんな昆虫に興味を持つようになっていった。

「じゃあ、昆虫の本は、小さくても力強く生きていきたいっていう、マモルの前向きな心を表しているってことなんだな」
僕が心の中で回想していたことを見透かしていたピヨちゃんは、ニコニコしながらそう言った。
「僕の前向きな心を表しているのが、昆虫の本、か......」

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たしかに、昆虫の本を読んでいる時だけは前向きな気持ちになれることに、僕はふと気づいた。昆虫を知れば知るほど、もっと知りたいという思いが止まらなくなって、夢中で何時間でも読んでいられるのだ。

取り出した21冊の昆虫の本。ホコリが付いているものはティッシュで簡単に拭き取り、机の棚に並べてみた。好きな本が並んでいるとなんだか気分がいい。また、それ以外の本は本棚にしまっていった。

そうして本をしまってみると、今度は床に散乱していた服に自然と目がいった。その瞬間に僕は、さっきのピヨちゃんの言葉を思い出した。

「マモルはどんな心を部屋に表すのが好きなんだよ」

その言葉が胸にこだまする中で、気づけば僕は部屋の片づけを始めていた。

 

 

空間心理カウンセラー・伊藤勇司さんのまとめ&解説】

行動の散らかりを整える1アクション・1タスクの原則

僕は片づけを「心理」という角度で見つめる仕事をしている中で、マモルくんのように引きこもって学校に行けなくなっているお子さんと話をする機会も少なくありません。そんな時、多くの親御さんは、
「どうしたら学校に行くようになるのか?」
と悩まれていることが多いのですが、
「なぜ、学校に行きたくないのか?」
「何がきっかけで、学校に行けなくなったのか?」
という「本当の理由」を聞こうとする方は意外と少なかったのです。

人は、自分の心を「大切にできている時」にはイキイキと輝きますが、自分の心がおざなりになればなるほど、陰にこもってしまいます。

うつや引きこもりも、自分の心が他人から、あるいは自分で大切にできなくなったことから、引き起こされているケースがほとんどです。

そして実は片づかないという状況も、自分の心を大切にできずに過ごしてしまっている結果として、生まれているケースが少なくないのです。そのことを踏まえて、ピヨちゃんが自然に行っている他者との関わり方を見てみましょう。

ユウコさんに対しても、マモルくんに対しても、ピヨちゃんは相手が心で思っていることを、「一切評価せず、事実として」相手が心で感じていることだけを、くみ取り続けています。

時に人は、自分の「正しさ」を押し付けてしまうものですが、ピヨちゃんは無邪気に「相手が心で何を感じているのか?」だけに興味を持っていました。そのやり取りがあったからこそ、マモルくんも素直に自分の心に向き合うようになり、ピヨちゃんに対して「自己開示」をするようになっていったのです。

人が前向きな行動を自発的に行うには、次の3つの順番をたどることが必要不可欠です。

1.自分の素直な心が何かを理解する。
2.自分の素直な心を外に表現する。
3.その外に表現した心が行動の原動力になる。

 

マモルくんは、ピヨちゃんとの関わりを通して、自然に1と2のプロセスを経たからこそ、「気がつけば部屋の片づけを始めていた」という、3つ目の行動を行っていたのです。

そしてもう一つ注目したいことが、ピヨちゃんの何げない投げかけです。「ほかにも、昆虫の本はあるのか?」という言葉をきっかけに、マモルくんは「部屋の中にある昆虫の本だけを探す」という行動をとりました。

このやり取りの中に、具体的な結果を最短で生み出すための本質が隠されています。
「部屋の中にある昆虫の本だけを探す」、これは、1つの行動に対して、1つの項目だけを設定しているということ。このことを僕は、「1アクション・1タスクの原則」と表現していますが、人は1つの行動に対して、1つの項目だけを行うと、ストレスなく行動を完了することができるのです。

実は片づかない方に多い行動パターンが「片づけをしよう」と思って、片づけをするということ。
これは当たり前かもしれませんが、この当たり前こそが行動を阻む盲点になっていることは、意外と気づかれていないのです。

よく考えてみるとわかることなのですが、そもそも片づけをするということは、漠然としたイメージの中で行動をするということ。さらに言うと、「何をもって片づけと定義するのか」が、人によって様々であり、統一された行動ではないのが、「片づけ」というフレーズなのです。

これは、片づけをしようとすると、1アクション・エニータスクになるということでもあります(1つの行動に対して、複数の項目を同時にする)。

このように、片づけとは様々な項目を内包するキーワードです。だからこそ、片づけをしようとすればするほど、逆に「行動が散らかる」という現象が起きてしまうのです。

ストレスなくスムーズに行動を完結するためには、行動が散らからないように、目的を1つに絞って、やるべき行動を統一していくことが必要不可欠となっていきます。
そうやって行動を統一して、一つ一つの小さな行動を「確実に完了する」ことができた時に、人の心には次なる行動を自発的にしたくなるような心理状態が生まれていくのです。
そこで、マモルくんの状態と行動が自然に変化していったプロセスを参考にして、次の質問に答えてみてください。

 

Q. あなたの部屋には、どんな心が表れていますか?

(例)●ひとりで悶々と悩んでいる心
   ●他者との関わりによって傷ついた心

Q. あなたの部屋の中にある、あなたの好きはなんですか?

(例)●昆虫の本
   ●見ると前向きになれる雑貨

Q. 今すぐにできる、1アクション・1タスクはなんですか?

(例)●部屋の中にある昆虫の本だけを探す
   ●床に散乱している服をクローゼットに戻す
 

次の記事「メルマガで好評! 空間心理カウンセラーになった僕の過去の武勇伝/家族を救う片づけ(6)」はこちら。

 

 

伊藤 勇司 (いとう・ゆうじ)

片づけ心理研究家。日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー。引っ越し業で働きながら、心理学を学ぶ中で「部屋と心の相関性」に着目し、現場で見た1000 軒以上の家とそこに住む家族や人との関わりを独自に研究。片づけの悩みを心理的な側面から解決する「空間心理カウンセラー」として2008 年に独立。主な著書に『毒舌フェニックスが教える 家族を救う片づけ』(KADOKAWA)、『部屋は自分の心を映す鏡でした。』( 日本文芸社)、『片づけは「捨てない」ほうがうまくいく』( 飛鳥新社)、『座敷わらしに好かれる部屋、貧乏神に取りつかれる部屋』(WAVE 出版)、『空間心理カウンセラーの「いいこと」が次々起こる片づけの法則』(三笠書房)等。


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『毒舌フェニックスが教える 家族を救う片づけ』

(伊藤 勇司/KADOKAWA)

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この記事は書籍『毒舌フェニックスが教える 家族を救う片付け』からの抜粋です

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