売り場ではおいしそうに見えた特売の肉。買ってきて家で調理したら硬くてがっかりした...という経験はないでしょうか。調理の前にちょっとひと手間かけるだけで、安い肉も柔らかく食べやすい肉に変身します。この記事では、家にあるものや簡単に手に入るものを利用して、硬い肉を劇的に柔らかくする方法を伝授します。
肉を加熱すると硬くなったりパサついたりする理由
焼いた肉が硬くなったりパサついたりするのは、肉の主成分であるたんぱく質が熱で変質するためです。筋繊維やコラーゲンなどのたんぱく質は、加熱すると縮んで固まるという性質を持っています。固まったたんぱく質からは水分が肉汁となって流れ出してしまうため、硬くパサついた食感になるのです。
一度固まったコラーゲンは、75~85度から軟化し始めます。同じ肉でも煮込むと柔らかくなるのは、長時間の加熱によって溶けたコラーゲンが、肉の繊維をほぐすためです。しかしながら、焼いたり揚げたりする場合はそれほど長い時間をかけられません。そこで調理前の一工夫が必要になるのです。
キーワードは「たんぱく質」! 肉を柔らかくする方法は3つ!
肉を柔らかくする方法と聞いて、真っ先に「肉をたたく」ことを思い浮かべる人が多いでしょう。ステーキやとんかつなど厚みのある肉を調理する際、肉たたきや包丁の背などを利用して肉の表面を軽くたたくと、繊維がちぎれて柔らかく仕上がります。
今回紹介するのは、食材に含まれる酵素や調味料を使う方法です。
厚めの肉はもちろん、薄切り肉やひとくち大に切り分けた肉にも活用できるので、参考にしてください。
【方法その1】たんぱく質分解酵素「プロテアーゼ」を活用する
初めに紹介するのは、たんぱく質に作用する「プロテアーゼ」という酵素を活用する方法です。
プロテアーゼにはたんぱく質を構成するアミノ酸の結合を切り離す働きがあるため、「たんぱく質分解酵素」と呼ばれています。
野菜や果物に含まれるプロテアーゼを利用すれば、肉の繊維がほぐれて柔らかくなるというわけです。
プロテアーゼを含む食材には、次のようなものがあります。
●野菜:まいたけ、玉ねぎ、しょうが
●果物:りんご、キウイフルーツ、パイナップル、パパイヤ、梨、いちじく
これらの食材で肉を柔らかくする手順は次の通りです。
1.食材をなるべく細かくする(みじん切り、すりおろし、ミキサーにかけるなど)
2.肉と混ぜ合わせ、そのまましばらく置く
食材を細かくするのは肉にまんべんなく絡ませるためです。
食品用保存袋に入れて上から軽く揉めば、手を汚さずに全体が混ざるので便利ですよ。
塩こうじや酢にも同様の効果があります。
ここからは、各食材の使用方法や注意点などを具体的に解説します。
●まいたけ
きのこ類には「キノコプロテアーゼ」というたんぱく質分解酵素が含まれています。
日本調理科学会の研究によると、特に「まいたけ」のプロテアーゼは熱安定性が高く、肉を柔らかくするのに効果的であることがわかっています。
秋が旬の食材ですが、栽培ものでも効果は変わりません。
手に入りやすく価格が安定していることも嬉しいですね。
肉を柔らかくするには細かく刻んだ方が効果的ですが、まいたけを付け合わせにする場合は、食べやすい大きさに切って肉となじませてください。
常温なら20~30分、冷蔵庫なら1~2時間ほど寝かせてから調理すると、肉が驚くほど柔らかく仕上がります。
参考:一般社団法人 日本調理化学会
●玉ねぎ
玉ねぎはさまざまな料理に使われるため、常備している家庭が多いでしょう。
肉を焼く前にすりおろした玉ねぎに浸けておくと、柔らかくなる上、肉の臭みも気にならなくなります。
30分ほど漬け込むだけでも効果がありますが、ひと晩そのまま寝かせるとより効果的です。
肉を漬け込んだあとの玉ねぎは、しょうゆやみりんなどと煮詰めてソースにできます。
食材のムダが出ないのも嬉しいですね。
●しょうが
豚のしょうが焼きや鳥のから揚げなど、肉料理のレシピには材料に「しょうが」が含まれているものが多いです。
目的は風味付けだけではありません。
しょうがには肉を柔らかくするほか、消臭効果や殺菌効果などが認められています。
体を温める効果もあり、積極的に利用したい食材といえるでしょう。
しょうがは皮のまま使います。
きれいに洗って皮ごとすりおろし、肉に揉み込んで、そのまま15分ほど寝かせてから調理してみてください。
臭みのないふっくら柔らかい肉料理になりますよ。
●りんごやキウイフルーツ、パイナップルなどの果物
パイナップルに含まれる「ブロメライン」、キウイフルーツに含まれる「アクチニジン」なども、たんぱく質分解酵素「プロテアーゼ」の一種です。
りんごや梨、いちじくなどにも、それぞれプロテアーゼが含まれています。
すりおろしたものを肉に揉み込んで、30分程度そのまま寝かせてください。
果肉が柔らかいものはざく切りでも構いません。
すりおろした玉ねぎを加えると、より効果的です。
注意点は「生」の果物を使うということ。
缶詰やジュースなどの加工食品は、加熱処理で酵素が失われているため効果が期待できません。
新鮮な果物が手に入ったときに試してみてください。
●塩こうじ
発酵調味料「塩こうじ」に含まれるこうじ菌にもプロテアーゼが含まれています。
肉の厚さにもよりますが、揉み込んでから20~30分ほどで十分柔らかくなります。
こうじの糖分が焦げやすいので、焼く前には肉の表面に付いた塩こうじをキッチンペーパーなどでふき取るようにしてください。
ところで、肉をヨーグルトに漬け込むと柔らかくなると聞いたことがないでしょうか。
ヨーグルトを使う際にも、塩こうじをちょっぴり加えることをおすすめします。
なぜなら、ヨーグルトにはプロテアーゼが含まれていないためです。
乳酸菌がプロテアーゼを作り出すので確かに肉は柔らかくなるのですが、たんぱく質の分解スピードは塩こうじの方が上です。
さらに近年、広島大学の研究により、こうじ菌のプロテアーゼに腸内の善玉菌を増やす働きがあることがわかりました。
ヨーグルトと塩こうじの組み合わせは肉を柔らかくするだけでなく、おなかの調子を整える効果も期待できそうです。
参考:【研究成果】米麹菌の酸性プロテアーゼを食べると腸内善玉菌が増加!|広島大学
●酢
甘酢煮や酢豚などは、酢の力で肉を柔らかくするレシピです。
酢を加えると肉のたんぱく質のph値が酸性側に傾きます。
それによって肉の保水性が高まり、プロテアーゼが活性化して繊維をほぐすという仕組みです。
硬い肉は調理前にマリネ処理をすると良いでしょう。
酢・ワインビネガー・香辛料・ハーブなどを調合したマリネ液に肉を漬けてから焼くと、香りが良く柔らかい肉料理に仕上がります。
【方法2】肉に「砂糖」を揉み込む
次に紹介するのは、砂糖の親水性・保水性を利用する方法です。
やり方は簡単で、調理の前に肉に砂糖をまぶしておくだけ。
こうしておくと、肉の繊維に入り込んだ砂糖の分子がたんぱく質の水分と結びつき、加熱したときに肉汁が流れ出すのを防いでくれます。
甘さが気になる場合は「ブライン液」を使うと良いでしょう。
ブライン液とは、水100ccあたりに塩・砂糖を各5gずつ溶かしたものです。
ブライン液に肉を浸すことを「ブライニング」といい、特にパサつきがちな鶏のささ身やむね肉に絶大な効果を発揮します。
漬け置く時間は肉の大きさによって異なりますが、大きな肉や量が多い場合は冷蔵庫でひと晩寝かせるのがおすすめです。
【方法3】炭酸水に漬け込む
3つ目は、炭酸水に浸けて肉を柔らかくする方法です。
炭酸水の成分「炭酸水素ナトリウム」には、たんぱく質を溶かす働きがあります。
そのため、炭酸水に浸けるだけで肉が柔らかくなるのですが、漬け込む時間には注意してください。
長い時間漬け置くと肉のうまみが流れ出てしまいます。
肉の大きさにもよりますが、1~2時間ほどで引き上げるようにしましょう。
なお、重曹を肉にまぶしても同じ効果が期待できます。
掃除・洗濯などに使用する重曹ではなく、「食用」と記載されたものを選ぶようにしてください。
まとめ:肉が柔らかくなる方法を知ればどんな肉を買っても安心!
調理前にひと手間を加えるだけで、硬い肉も劇的に柔らかくなります。
ポイントは、たんぱく質を分解すること。
たんぱく質に作用する食品をいくつか紹介しましたが、いずれも身近にあるものばかりです。
もう肉を買うときに「安いけど硬そう...」などと悩む必要はありません。
ぜひ試してみてくださいね。