「おかあさん、一緒に暮らさない?」は「悪魔のささやき」? 高齢者のひとりぐらしも悪くない

慣れ親しんだ自宅で、自分らしい幸せな最期を迎えたい! たとえ、「おひとりさま」でガンになっても、認知症になっても...。2019年、高齢者世帯の独居率は27%になりました。さらに独居予備軍である夫婦だけの高齢者世帯率も33%。近い将来、高齢者の独居世帯は半分以上になるでしょう。また、90歳を越えて生きる男性は4人に1人、女性は2人に1人と、まさに人生100年。そんな中、「高齢者のおひとりさま」は「かわいそう」「さみしい」という時代は変わってくるかもしれません。そこで今回は、社会学者で東京大学名誉教授である上野千鶴子さんの『在宅ひとり死のススメ』(文春新書)の第1章より「すごい勢いで『おひとりさま』が増えている」を抜粋してご紹介します。

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すごい勢いで「おひとりさま」が増えている

 わたしが『おひとりさまの老後』(法研、2007年/文春文庫、2011年)を書いた動機は、年寄りがひとりでいると、それだけで「おかわいそうに」「おさみしいでしょう」という声が降ってくることに対して、「大きなお世話!」と言いたいからでした。

 「負け犬」おひとりさまは人口学的少数派、その少数派のために書いた本が、多数派の既婚女性たちに読まれてベストセラーになったことも想定外でしたが、その後、あれよあれよと「おひとりさま」人口が増えました。

 介護保険が始まった2000年には、高齢者の子どもとの同居率は49・1%(内閣府、2000年)、それからおよそ20年で30・9%(内閣府、2017年)までに低下しています。高齢者世帯の独居率は、わたしが『おひとりさまの老後』を出した2007年には15・7%だったのが、2019年には27%と急増。夫婦世帯率は33%と高齢者のみの世帯の合計が5割を越えます。夫婦世帯は死別離別による独居世帯予備軍だと考えれば、近い将来、独居世帯は半分以上になるでしょう。

 いずれはそうなるだろうと予測はしていましたが、変化のスピードは、わたしの予測を超えていました。大きく変化したのは、夫婦のいずれかに死に別れても、世帯分離を維持したまま、中途同居を選択しないひとたちが増えた、ということです。『おひとりさまの老後』で、「親をひとりで置いておくなんて」と責められる子どもからの「おかあさん、一緒に暮らさない?」という申し出を、「悪魔のささやき」とわたしは呼びました。いまや、こうした「悪魔のささやき」を口にしてくれる子どもはいなくなりましたし、それを受け入れる親も少なくなりました。世代間の世帯分離はすっかり定着しました。

 なぜって? その方が親も幸せ子も幸せ、ということを、お互いに学んだからです。その背後にある大きな原因は、高齢者のひとりぐらしに対する偏見がなくなったこと、とわたしは考えています。高齢者のひとりぐらしも悪くない、やってみると存外よいもの、ということがわかったからです。

 そんなこと、「おひとりさま」ベテランのひとたちはとっくに気がついていたのですけれど、「家族万歳!」のこの世の中では、大きな声でいうのをはばかられただけ。それだけでなく、既婚の女性たちが、死別離別でどんどん「シングル・アゲイン」になってみると、ひとりも悪くないわね、と学習した効果もあるでしょう。わたしは死別離別を問わず、「シングル・アゲイン」になった友人に、「おかえりなさい」と言うことにしています。「家族する」のは人生の一時期、過ぎてしまえばみな同じおひとりさま。遅かれ早かれ、ひとりに戻ってくることになるからです。

【次回】「死に場所は病院」と考えていませんか? 病院は死なす場所ではなく生かす場所

【まとめ】「在宅ひとり死のススメ」記事リスト

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8章にわたり「おひとりさまの幸せ」を解き明かしながら、「慣れ親しんだ自宅で、自分らしい最期を迎える方法」を紹介します。

 

上野千鶴子(うえの ちづこ)
1948年生まれ。社会学者。東京大学名誉教授。認定NPO 法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。京都大学大学院社会学博士課程修了。日本における女性学・ジェンダー研究・介護研究のパイオニアとして活躍。著書は『おひとりさまの老後』『男おひとりさま道』(文春文庫)、『おひとりさまの最期』(朝日文庫)、『女たちのサバイバル作戦』(文春新書)、『上野千鶴子のサバイバル語録』(文春文庫)など多数。

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『在宅ひとり死のススメ』

(上野千鶴子/文春新書)
「現在72歳。ある日、亡くなっているのを発見されたら、それを『孤独死』とは、呼ばれたくない。それが本書の執筆動機です」(上野千鶴子)。累計111万部を超える人気シリーズ『おひとりさまの老後』最新作! 慣れ親しんだ自宅で、自分らしい幸せな最期を迎えるための心得や知識がつまった一冊です。

※この記事は『在宅ひとり死のススメ』(上野千鶴子/文春新書) からの抜粋です。
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