課税額が決まる年末が近づき、「ふるさと納税」の利用を検討しているという人もいるのではないでしょうか。「ふるさと納税」は、私たちが住む都道府県、市区町村以外の自治体に寄付を行う制度です。
「ふるさと納税」の仕組み
※10,000円を寄付した場合を想定。 保田先生の解説を基に作成
寄付額が、私たちに課税される住民税のおよそ2割を上限にキャッシュバック(自己負担額の2,000円を除く)されるため、上の図のように事実上、私たちが好きな自治体を選び納税できる仕組みになっています。
この問題に詳しい保田隆明先生は、「都市部に住む人たちの意識を地方に向けたという意味では、成功と言えます」と、評価します。
全国の自治体に「ふるさと納税」で集まった寄付額は、総務省の発表によると2019年度では約4875億円。
制度創設当初の08年度では約81億円だったため、約10年で60倍以上に増えたことになります。
これだけ寄付の総額が増えた理由の一つとして挙げられるのが、返礼品の存在です。
自治体が寄付した人に対し、その地域の特産品などを寄付のお礼として返送するのがいつしか定番になりました。
寄付額が増えるのは悪いことではありません。
ただ、「肉、カニ、米といった人気の返礼品を持つ自治体には寄付が集まり、そうではない自治体は相対的に不利になる問題が顕在化しました」と保田先生は指摘。
※画像はイメージです
さらに、それに伴って一部の自治体が商品券などの金券を返礼品にするようになり、競争が激化。
昨年、返礼品は寄付額の3割まで、などというルールが決められ、ようやく競争が少し落ち着きました。
そんな中、「ふるさと納税」の別の側面が注目を集め始めています。
「『ふるさと納税』は、私たちが納める税金の中で唯一、使い道が見えるものです」と、保田先生。
例えば、各地を襲った豪雨や地震などの災害。
その被災地支援のための寄付としても、この「ふるさと納税」の仕組みが利用できるのです。
被災地支援で活用したいのが、代理寄付という制度です。
「ふるさと納税」の場合は寄付した人に対し、自治体は寄付金受領証明書というものを返送する必要があります。
しかし、災害直後の自治体職員は総出で被災に対応している最中なので、事務作業にも一苦労。
そのため、代理自治体が寄付を受け付け、証明書発行のような事務作業も行い、寄付金もまとめて被災地の自治体に届ける、という仕組みが生まれました。
近年「ふるさと納税」で 被災地支援を受け付けている主な自治体
※上記は被災地支援の寄付を受け付けている自治体の一部。各自治体のホームページなどより作成
上の図はほんの一部ですが、いまでは多くの自治体が「ふるさと納税」の仕組みを利用して、被災地支援の寄付を募っています。
「返礼品ばかりが注目されてきましたが、このように使い道を指定して寄付できるのも、大きな利点の一つです」と、保田先生。
被災地支援以外にも、「教育」「医療・福祉」といったように使い道を指定しての寄付も可能です。
「現状では、さらに細かく課題ごとに指定して寄付できる自治体も増えています」。
ただ、注意が必要なことも。
「行き過ぎると、寄付されやすい世間の注目を集める課題、例えば犬猫の殺処分を防ぐというような課題ばかりに寄付が集まるという事態になりかねません」と、警鐘を鳴らしています。返礼品はもらうとうれしいですし地域活性化にもつながるのですが、一方で「ふるさと納税」の使われ方を意識することも大切ですね。
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取材・文/仁井慎治 イラスト/やまだやすこ 地図/小林美和子