「感謝」以上に相手の心に深く訴えかけます。「恩」を用いた相づちのスゴイ効果

人との距離を取る新しい暮らし方に慣れてきても、悩みが尽きないのが「人間関係」。これを円滑にできる方法の一つに「相槌対話法」というテクニックがあります。そこで、実践的な技術がまとめられた書籍『誰とでも会話が続く相づちのコツ』(齋藤勇/文響社)から、すぐにできる相づちの「さしすせそ」と「あいうえお」の使い方を連載形式でご紹介します。

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深い感謝こそが人間関係を強固にする

人間関係を深める相槌の「あいうえお」の最後の「お」は、「恩」の「お」です。

「恩に着ます」「恩に感じています」などの相槌を打つと、これからも、深く長い人間関係を続け、相手に恩返しをすることを誓うことにつながります。

さらに、「一生の恩です」と言うと、生涯、人間関係を保ち、しかもその間、感謝をし続けてくれるのだと、相手に感じさせることができます。

言われた人にとって、こんなありがたい関係はないので、恩の相槌を言った相手に対して、絶大の信頼と好意、慈愛を感じます。

だから、この恩の相槌は相手との人間関係を極めて深めることができるのです。

「恩」の相槌は特に日本人の人間関係を深めるのに役立ちます。

それは、「恩に着る」、「恩をかける」という関係は、そこに上下関係のニュアンスが含まれているからです。

日本人は、人間関係が、相手が下であるときに一番、安心感を感じます。

「恩」の相槌は、相手が自分が下であることを伝えているのです。

感謝の意を伝える相槌は人間関係を深めるのに有効ですが、「恩」の相槌は、感謝以上に相手の心に訴えることができるのです。

それは、「恩」が一生の感謝を表すからなのです。

昔話、『鶴の恩返し』は、日本人の恩についての心情をよく表わしています。

子どもへ『鶴の恩返し』を読み聞かせしているシーンをイメージしてほしいのですが、読み手の大人は、物語のおじいさんに自分を同一視して、子どもが成長したときに鶴のように恩返しをしてくれることを期待して話しているのです。

日本人の人間関係の情的基盤に、この親から子への、師匠から弟子への恩情があり、それに対する報恩の情、恩返しへの期待があります。

しかも、この恩返しへの期待は、『鶴の恩返し』が、暗示しているように非常に大きいのです。

そのため、いつも報いられることを期待していますが、現実には、そうはいきません。

人は何回も何回も感謝されたいと思っています。

日本人は特にそうです。

恩も通常以上の感情なので、強く、できたら一生、恩返しされたいと思っています。

このため、恩を受けた人が、それに十分応えることは、難しいのです。

その結果、不十分な恩返しに上司や教師など目上の人が、不満を持っているケースが多くあるのです。

「恩」は、深い人間関係に関する言葉なので、軽々しく使うことは避けなければなりません。

ここ一番の深い感謝の気持ちを表わすときに使いましょう。

現在、「恩返し」といった継続的な人間関係は希薄になっています。

そんななかで、あなたが会話の中で「恩」の相槌を打てば、上司は、「最近ではめずらしい、感謝の心や恩返しの気持ちをもった部下だ」と高く評価するでしょう。

そして、もちろん強い好意をもち、これからも、近くにおいておきたいと思うはずです。

しかし、「恩」は、その重さゆえに、きちんと関係を踏まえて使っていかなければいけません。

恩を受けた人の、対応が難しい場合もあります。

日本人といえども、半永久的にへり下った関係は、現在ではなかなか対応できないでしょう。

さらに、「恩」の人間関係で難しいのは、恩を与え、恩返しを受ける立場の人は、その人間関係を最も心地良く思っているが、反対に恩を受けた人は、その人に会うと、恩返しをいつも意識し、恐縮していなければならないので、長期になると、あまり会いたくなくなり、会ったときもよい気分になれない人が多いのです。

ここで問題なのは、恩を与えた人は、受けた人が、当然、恩を感じている自分に好意ももってくれると思い込んでいることです。

困っている人を助けてあげたのだから、助けられた人は、助けた人に好意を持つのは、当然だという考えかたです。

道徳的に言えば、その通りなのですが、現実の人間の心理ではどうなのでしょうか。

これは、心理学の「援助行動の実験的研究」で明らかにされています。

実験の前提として、助けられた人は助けてくれた人に対して恩を感じ、好意を持つと考えます。

しかし、援助者に対して好意を持つかどうかは、そう単純ではないことがこの実験でわかりました。

心理学者ガーゲンらの研究では、資本主義的な考え方を持つアメリカ、社会主義的な考えを持つスウェーデン、強い恩の伝統を持つ日本という3つの異なった文化の各々の大学生を被験者として援助と好意の比較文化心理の実験を行いました。

実験は6人1組。

大学生の被験者を、簡単なサイコロを使ったギャンブルゲームに参加させます。

最初に、元金として4ドル相当のポーカーチップ40枚が渡され、サイコロの目に応じて勝ち負けの決まるゲームを行います。

実験者は被験者に対して、ゲーム後にチップは現金に換えられると説明します。

実はこのゲームは、実験操作が行われ、被験者は、大負けするようになっているのです。

実験者は偽りの成績を発表し、被験者は、6人中最下位であることを知らされます。

そして、ゲームがかなり進み、被験者は負けがこみ、持ち分が全部なくなってしまうような追いつめられた事態となります。

そのとき、被験者に参加者の1人から、匿名で10枚のチップの入った封筒が渡されます。

封筒には短いメモが入っている。

このメモがポイントで、援助の仕方が三つの条件に操作されているのです。

第1のメモには、「チップを返す必要はない」と書かれています。

第2のメモには、「ゲーム終了後に、同じ枚数を返してほしい」と書かれています。

第3のメモには、「渡したチップは利子をつけて返してほしい」と書かれています。

この援助により、被験者はゲームを続けることはできました。

この実験で知りたいのは、このような条件で、援助をした人に対する受け手の評価です。

それを知るために、このゲームの終了後、送り主への好意度が測定されたのです。

その結果、「返却の必要なし」の援助者は意外にも、いずれの文化にも好まれなかったのです。

つまり、無償の提供は、受け手に恩着せがましいと受け止められたのです。

このような行為は、どの文化の人にも好意はもたれないことが明確に示されました。

援助者への好意が一番高かったのは、贈られた分と同等分を返すように言われた同額返却条件でした。

ちなみに、アメリカと日本が、この条件に対して一番好意度が高く、一方、スウェーデンの学生は同返却と高返却の援助者に同じくらい高い好意を示したのです。

そして特徴的だったのが、日本の学生が、高返却条件の援助者に対して、他の二つの文化の学生よりも強い拒否反応を示したことです。

恩を売ること、高利貸しへの反感といえるでしょう。

このように、文化によって援助の仕方に対する好意は異なるのです。

この実験が明らかにしていることは、相手の気持ちも考えない一方的な援助は、恩を感じてもらえるどころか、むしろ恩着せがましい行為として、嫌われることになってしまうということです。

人の自尊心やプライドを踏みにじるような、あるいは「困っているのだから助けてあげる」といった一方的な上から目線の場面は、決して歓迎されません。

「恩」による人間関係の結びつきは、非常にセンシティブなものだということがいえるのです。

とはいえ、タイミングさえうまくつかまえれば、「恩」ほど有効な相槌は他にありません。

十分に注意して、ここぞという時に使用してみてはいかがでしょうか。

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コミュニケーションを円滑にする相づちのテクニックが全5章で解説されています

 

齋藤勇(さいとう・いさむ)
立正大学名誉教授、大阪経済大学客員教授、文学博士。日本ビジネス心理学会長、日本あいづち協会理事長。人間関係の心理学、特に対人感情や自己呈示の心理などを研究する。メディアでも活躍し、心理学ブームの火つけ役となった。著書、監修書に『超・相槌』(文響社)、『外見心理学』(ナツメ社)など多数。

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『誰とでも会話が続く相づちのコツ』

(齋藤勇/文響社)

会話が上手な人が持っているスキル、それは相手の話しをスムーズに引き出す力。つまり「相づち」です。家族や友人との会話に、仕事でのコミュニケーションに、どんなシーンでも使える「万能の会話テクニック」が満載です。

※この記事は『誰とでも会話が続く相づちのコツ』(齋藤勇/文響社)からの抜粋です。

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