人との距離を取る新しい暮らし方に慣れてきても、悩みが尽きないのが「人間関係」。これを円滑にできる方法の一つに「相槌対話法」というテクニックがあります。そこで、実践的な技術がまとめられた書籍『誰とでも会話が続く相づちのコツ』(齋藤勇/文響社)から、すぐにできる相づちの「さしすせそ」と「あいうえお」の使い方を連載形式でご紹介します。
「人間関係の基礎作り」でどんな相手ともうまくいく
基本的相槌の「さしすせそ」の"そ"は、同意の相槌です。
相手の話したことに同意して、
「そうです、そうです」
「その通りです!」
「そうだよね~」
と言うだけです。
使いやすいフレーズではありませんか?
話す側は、どんな場合も聞き手が自分の話に興味があるかを常に気にしています。
そして、言ったことに同意してもらえるかどうかを気にかけ、同意が得られると、安心し、ほっと胸をなでおろすのです。
どんな話であっても聞き手が、同意を示すまでは不安です。
話の大半は、相手の同意を得ながら話していると言っても過言ではありません。
だから同意の相槌は話し手にとって重要なのです。
話し手は、あなたに相談しているように見えても、本心は自分の話に同意を求めています。
だから、万が一にでも、その話を頭から否定してしまうと、相手は不愉快になり、関係はこじれてしまいます。
聞き手は、話し手の言うことに、即、反対などしてはいけないのです。
また、批判はもっといけません。
必要なのは、まずは同意。
同意の相槌です。
それから、ゆっくり、もう一度「そうですよね~」と言うことです。
話し手は、そこに何か温かい好意を感じるはずです。
反対や批判をするよりもずっと良い関係が生まれます。
とはいえ、どうしても同意できないこともあるかもしれません。
それでも、真正面から反対すると人間関係がまずいことになります。
そんなときに使いたいのが、「イエス・バット法」です。
「イエス・バット法」は、相手の意見を聞いたら、まずは「イエス」つまり「そうですね」「その通りですよね」という。
言い換えると同意の相槌を打つ。
その後、一呼吸おいて「ただ、今回の場合は......」など、バットを付け、自分の意見を伝えていくのです。
「イエス・バット法」は、限定条件をもうけて同意をしつつ、今回限りの否定の意向を示す話法なのです。
話し手は、全体的な同意を最初にされるので、自分の考えは、相手に受け入れられたと感じます。
そのため、後から限定的に否定の意見を言われたとしても、強い不快感は抱かないという効果があります。
私が大学で社会心理学を学んだとき、最も印象的だった最初の専門用語は「ソーシャル・リアリティ(社会的真実性)」という言葉でした。
ソーシャル・リアリティとは、周りの人の同意が真実をつくるということです。
有名な社会心理学の実験に、同調行動の実験があります。
6人で線の長さの正しさを判断するのですが、うち5人はさくらで、間違った長さを声に出して答えます。
すると、残った本当の被験者も、皆に合わせて、間違った答を正解として答えてしまうのです。
周りの人の同意が真実を作るというのを示した実験でした。
これにより、私たちは同意に支えられて生きているのだと認識させられました。
私たちにとって、物事の真実はどうやって判断しているのでしょうか。
物差しで測ればいいのかも知れませんが、世の中の多くのことは、何が正しいのか、計るスケールはないのです。
実は物理的真実性がないのです。
では、どうやって自らの"正しさ"を判断しているのでしょうか。
実は、"正しさ"は、周りの人の同意によって成立しています。
友人に自分の意見を話し、「そうだよね?」と疑問形で投げかけて「その通り」と相槌を打たれたら「正しい」と自信が持てるのです。
つまり、周囲からの同意の相槌が正しさになるのです。
聞き手から「そうだよ、その通りだよ」といわれると、正しいと感じて、話し手はほっとするのです。
特に、自分が好意をもっている人からの同意の相槌は大きな支えとなります。
「そうですね」という同意の相槌が、いかに重要かが、おわかりになりましたでしょうか。
同意の相槌は、二人の関係性の基盤となっているのです。
社会では、「イエスマン」は批判的に見られます。
あなたも、そんな人が周りに何人もいて不満を抱いている人の一人かもしれませんね。
しかし、実はそんな「イエスマン」こそが、会社において、社会において必要な人なのです。
そのことは、心理学の研究では、すでに多くの実験で証明されています。
同意の相槌には、もう一つ重要な心理的意味があります。
それは、聞き手が自分も、話し手と同じように考えているということを伝えられるということです。
その相槌を聞くことにより話し手は、聞き手が自分と同じ考えを持った仲間だと感じることができるのです。
話し上手になりたいのは、人から好かれたいから、人が人を好きになるのは本当は、どんな要因からなのでしょうか?
こうした関心への追究を「対人魅力の研究」といい、対人心理学の重要な分野と位置づけられています。
その研究成果の一つが、「好き嫌いは、意見や考えが類似していることによって決まる」ということです。
社会心理学者バーンとネルソンの「類似性の法則」によれば、相手が自分と同じ意見や考えを持っていればいるほど好意を持つようになるということを報告しています。
これを相槌で置き換えると、同意の相槌を打てば打つほど、話し手の好意度は増し、関係性を深めることができるということになるのです。
バーンとネルソンは以下のような実験で、この「類似性の法則」を検証しました。
対象者は大学生で、学期初めに、教育や福祉、人種問題、文学などについての意見を調査表に記入させておきます。
各人がどういった意見を持っているかをあらかじめ把握しておくためです。
実験当日、被験者は実験者から、「今日の実験は一定の情報からどれくらい正確に人を判断できるかという『対人知覚』の実験である」と説明されます。
そして、他の人の調査表の結果を手渡されるのです。
以前自分も回答した調査表を見て、被験者は自分との共通点と相違点を見出すのです。
「実験課題はその調査表を見て、その人への好意度などを判断することだ」と説明されます。
ただし、実は、実験操作が行なわれており、手渡される他の人の調査表は本物ではなく、実験者により作成されたものなのです。
各自に渡される調査表は、被験者本人が以前答えた意見を参考に作成し、本人との意見の一致度を作為的に変えているのです。
渡された類似の意見の項目数は4、8、16の三つの場合があり、一致度は各々、100%、67%、50%、33%に設定しています。
たとえば、全体が16項目で100%の一致率の場合、16項目全部が一致していることになり、50%の一致率の場合は、8項目で一致しているという仕組みです。
被験者は、このようにして作成された調査表を見ながら、対人好意を判断をするのです。
実験の結果から、明らかに一致率が高くなればなるほど、それに応じて好意度が増すということがわかりました。
つまり、「人は意見が同じ人に好意を持つ」ということが実証されたのです。
データを詳しく分析すると、一致した項目数よりも一致率の方が好意度が増すということわかりました。
同じ8項目の一致でも、16項目中の8項目よりも、8項目中8項目つまり一致率50%より100%の方が好意度が高いことが明らかになったのです。
一方で、意見が異なるとその分、好意度は低くなることもわかりました。
この実験が示すように、意見の類似性は好意を生み、一致率は好意を高めます。
この法則を応用して話し手の好意度を増すには、ここまで話してきた相槌を利用すれば、それほど難しくないことだということがおわかりいただけるでしょう。
「そうです!」「その通りです!」といった、同意の相槌を打てば打つほど、あなたに対する話し手の好意度は増すのです。
話し手が、自分の意見の正しさを確認し、同意してくれた人を信頼し好意をもつことになるからです。
「そうです」「その通りです」「そうですよね」という相槌を覚えれば、人間関係のベースはできたも同然なのです。
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