2020年6月1日から改正労働施策総合推進法、通称「パワハラ防止法」が施行されました。経営者はもちろん、従業員もパワハラ防止対策に取り組まなければならないという法律ですが、一体何に気を付ければよいのでしょうか。そこで、パワハラ防止法のすべてがわかる『最新パワハラ対策完全ガイド』(和田隆/方丈社)から、そもそも「パワハラ」とは何か、そして最新の対策や対処法などをご紹介します。
パワハラの構成要件とは
パワハラの構成要件とはパワハラ防止法において、パワハラは次のように定義されています(三〇条の二)。
《職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること》
このままでは、わかりにくいので、中身を4つに分けて説明します。
①職場において行われる
まず、パワハラが行われるのは「職場」であるということです。
職場といっても、場所が会社の中と限定されているわけではありません。
会社の外であっても、就業時間外であっても、職務や職場の関係性の中で行われていれば該当することを意味しています。
②優越的な関係を背景とした言動であって、
パワハラにあたる行為をする者には、何らかの優位性があります。
代表的な優位性は「職務権限」です。
職務権限を持つ管理職・上司には優位性、すなわちパワーがあります。
パワーのないところに、パワハラはありません。
管理職・上司は、自分の立場にはパワハラリスクがあることを自覚し、パワーを適切に使うことが求められます。
職場におけるパワーは、職務権限だけではありません。
たとえば「経験」です。
ベテラン社員、社歴の長い社員には、ほかの社員が持っていないスキルや人脈、ノウハウの蓄積などがあります。
また「専門性」も一つのパワーになります。
実務に関する専門性はもちろんですが、たとえば最新の情報機器に関するリテラシー(活用能力)は、若い世代のほうが年輩の人たちよりも長けています。
こうした「経験」や「専門性」というパワーを背景に、それらの力を持たない人にハラスメントを行えば、パワハラになります。
ほかにも、「集団」のパワーがあります。
これは、一般社員が集団になって、職場の上司を追い出すために、上司に対してハラスメントを行うなどのケースです。
一般的な関係性としては、上司のほうが部下に対してパワーを持っているのですが、部下が結託していやがらせなどを行った場合は「集団」のパワーを使ったパワハラになります。
さらに、「正当性」のパワーもあります。
これは、階級が明確な組織や、人命が懸かっている職種など、反論できる余地がないような環境下で行われるものです。
正当性を主張されると、逃げ場がなくなります。
正当性に基づいた業務命令ではなく、正当性を盾にしたハラスメントを行うのはパワハラです。
一般的にパワハラといえば上司が部下に対して行うものというイメージがありますが、「パワー」があればどこでも起こる可能性があります。
現代は、組織のあり方も個人の働き方も多様化しています。
その分、パワハラをめぐる問題も複雑化しているのが現実です。
パワハラは、単に管理職が気をつける問題、管理職だけに教育をすればよい問題ではなくなっています。
働く人全員が、自分が持っているパワーを自覚し、それをどう行使していくのかを考える必要があるのです。
③業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
①で職務でつながる人間関係の中で行われること、②で行為者に何らかの優位性(パワー)があることを見てきました。
③は、実際の行為が業務上必要なものであったかどうか、範囲が適切であったかどうかです。
業務の目的から大きく外れていたり、業務上必要性のない行為が継続的に行われていたりすれば、パワハラの構成要件を満たすことになります。
たとえば、業務と関係のない個人的な用事を繰り返し命じたり、逆にプライベートなことを執拗に詮索したりする行為はこれにあたります。
仕事でミスをした部下を叱る―これは業務上必要なことと考えられますが、そのやり方や程度が適正な範囲を逸脱していれば、該当することになります。
④その雇用する労働者の就業環境が害されること
その行為によって被害があることです。
個人に対して、身体的、精神的なダメージを与えた。
あるいは、職場環境の悪化など就業環境を害したなどです。
パワハラが成立するためには、行為者がいるだけでなく、その行為によってダメージを受けた個人や組織が存在するということも、要件の一つになっているわけです。
パワハラの定義を4つに分けて説明しましたが、厚生労働省の発表したパワハラ指針では、②~④の3つの要素が揃うとパワハラが成立するとしています。
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これからの時代、「働く人の常識」になるパワハラ対策を全7章で解説。厚生労働省のガイドライン全文も付録されています