友人や家族と遊んでいても、仕事が気になって楽しめない...休日に、心と体をちゃんと回復できていますか?そんな「毎日忙しい!」と感じるあなたに、精神科医・西多昌規さんの著書『休む技術』(大和書房)から、日常のパフォーマンスが上がる「上手に休むコツ」を連載形式でお届け。きちんと休めば、仕事もプライベートもさらに楽しめるようになります!
記憶力にもやっぱり「息抜き」が大事
勉強にも仕事にも、「休憩」「息抜き」が大切です。これはわたしたちの日常的な実感としても、十分納得できることだと思います。
でも、時間との勝負のような状況ではどうでしょう。あるいは、試験前の一夜漬けで、5分も休めないような状況だとしたら?「休んでなんかいられない」と思ってしまうのも、無理ないように思われます。
そんなときは、休憩することに科学的な根拠があれば、安心して休憩を取れるのではないでしょうか。睡眠や仮眠が脳にプラスにはたらく研究は数多いのですが、休憩となるとどうでしょうか。
実を言うと、「休憩」「息抜き」の定義があいまいなのが、研究デザインを考えるときに立ちはだかる壁です。コーヒーを飲んで一服する、という場合は、カフェインやニコチンの影響を考えなければいけません。「息抜き」といっても、ひとによって、ネット、読書、ボーッとする......と、さまざまです。万人向けで、しかもほかの要因を含まない純粋な休憩という定義は、なかなか難しいのです。
記憶についての研究によれば、一夜漬けなどで短時間に詰め込んだ知識よりは、ある程度の期間をかけて、休憩を挟みながら繰り返し勉強して得られた知識のほうが、記憶が長続きするというデータが知られています。
経験的にも納得のいくことですが、独立行政法人理化学研究所を中心としたグループが2011年に発表した論文で、この現象の科学的な根拠を明らかにしました。適度に休憩を挟むほうが、記憶効率が高まるという研究結果です。
短時間で詰め込む勉強を「集中学習」と呼ぶのに対して、適度な休憩を取りながら継続的に続ける勉強を「分散学習」と言います。そして、「分散学習」の中に、短期記憶から長期記憶への変換がおこなわれるプロセスがあるというのです。
休むことで、記憶は脳に定着する
マウスを用いておこなわれた実験からわかった重要なポイントは、神経細胞に長期記憶が形成されるためには、休憩中に生産されるタンパク質が記憶の定着や固定に重要な役割を果たしているということでした。人間においても、休憩中につくられるタンパク質は、短期記憶を長期記憶に変えていくために欠かせない物質だと推測されます。
このタンパク質の形や性質は、まだはっきりと断定されるには至っていませんが、現段階では仕事、勉強を続ける合間に休憩を挟むことが、記憶の定着から考えても合理的であるという事実は、もはや動かし難いでしょう。
イギリス、エジンバラ大学のグループが2012年に「Psychological Science」誌に発表した論文でも、物語を記憶したあとに暗い部屋で10分じっと休憩を取るほうが、記憶効率が上がっていたそうです。この研究は高齢者が対象でしたが、青年でも同じような現象が見られることがわかっています。
不眠不休とまではいかないまでも、休憩なしで働きづめでは、ミスが増えるばかりでなく、学習効果も落ちてしまいます。労働時間が長いのにもかかわらず、「いつまでたっても仕事を覚えられない」「能率がさっぱり上がらない」「この前やったことが、頭に残っていない」という、悲しいことになるかもしれないわけです。
自分の頑張った結果が、記憶に残らない......がっかりして、モチベーションを失うのも仕方がないでしょう。
そうなるくらいであれば、適度に休憩を取るほうが、健康にも仕事にも効率的ということになります。「休憩」「息抜き」で、脳のタンパク質が増えて、記憶力が上がっているイメージしましょう。
ただし、休憩や息抜きのしすぎでは、いくらタンパク質がつくられても、長期記憶に移るべき短期記憶が身につきません。仕事で脳に負荷をかける時間をつくって、いいタイミングで休憩を入れる。この繰り返しが、脳のはたらきを効率化する基本でしょう。
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