【虎に翼】本当の「平等」に向けて...残り3週で描かれる惨く重い事件。最高裁長官・桂場(松山ケンイチ)の変化・変節が気になる

【前回】原爆裁判に幕。判決文に込められた寅子(伊藤沙莉)たちの「強い思い」と今、朝ドラで読み上げる「意義」

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「最終盤で描かれる重い事件」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【虎に翼】本当の「平等」に向けて...残り3週で描かれる惨く重い事件。最高裁長官・桂場(松山ケンイチ)の変化・変節が気になる pixta_13329698_M.jpg

NHK連続テレビ小説『虎に翼』の第24週「女三人あれば身代が潰れる?」が放送された。

今週含めて残り3週。まだまだ解決していない差別や偏見、不平等の問題はたくさんある(令和の現在まで続くわけだが)。

香淑(ハ・ヨンス)の娘・薫(池田朱那)は、香淑が朝鮮人だったことを隠していたを知り、激怒。香淑は差別から子どもを守るために隠してきたわけだが、薫からは自分が安全な場所にいて、加害者側にまわったのだと非難され、拒絶されてしまう。

昭和44年、学生運動が激化。東大の安田講堂占拠事件で機動隊が導入され、抵抗した学生数百人が逮捕される事件が起こった。その事件に薫が巻き込まれ、香淑はよね(土居志央梨)と轟(戸塚純貴)に弁護の依頼に訪れるが、弁護士になった香淑自身が弁護すると言い出し、混乱に。さらに薫の破談などの問題も描かれる。

ところで、法廷で傍聴人の学生たちが「インターナショナル」を歌い出す様などに、学生運動の過激さやネガティブな印象を抱いた人もいただろう。しかし、2024年現在、東大の安田講堂前で学費値上げの反対運動が行われ、警察が動員される事態を経て、9月10日には値上げの方針が示された。こうした運動や声をあげることは物騒にもうつるが、そこには声をあげざるを得ない背景があること、それは今まさに起こっている問題と重なることも改めて考えさせられる。

今も続く問題として、少年法の問題も描かれた。多岐川(滝藤賢一)は病を患い、治療に専念する中、「少年犯罪の厳罰化」を求める声の高まりを気に病んでいた。「愛の裁判所」として家庭裁判所を設立した多岐川は、少年法改正反対の意見書を作成、それを渡すべく最高裁長官となった桂場に病床から「来い」と電話するが、忙しいからと拒絶される。多岐川は少年法への思いを残しつつこの世を去るが、それは寅子らが受け継ぐことになる。

今週はそれらと並行して日常――寅子(伊藤沙莉)や周囲の人々の老いや様々な変化も描かれる。

百合(余貴美子)の認知症は進み、やがてこの世を去る。梅子(平岩紙)と道男(和田庵)は和菓子屋+寿司屋の「笹竹」を営むが、梅子の老いが進む。

猪爪家では直人(青山凌大)が判事補に、直治(今井悠貴)はサックス奏者になり、優未(川床明日香)は大学院で寄生虫の研究をしている。一方、星家では、朋一(井上祐貴)が最高裁事務総局で働き、のどか(尾碕真花)の恋の問題なども描かれる。

ところで、極端な老けメイクや白髪など施していないのに、中年の貫録を増しているのは寅子だ。

東京家庭裁判所総括判事・少年部の部長を務める中、少年が担当の裁判官にババアと担暴言を吐くと、脇から「ババアはこっち」と笑顔で鉾先を自分に向けさせ、少年の愚痴を聞きながら「働きだしたばかりで大変なのね」と微笑む。余裕の微笑みでわかったふうな態度をとる寅子には、余計にブチ切れる少年もいそうだが、寅子のこうした負の面も意図的に描かれているのだろうか。

何しろ、かつては現実主義者で斜にかまえていた朋一が、父・航一(岡田将生)から「寅子さんの影響か」「正論を述べることと上に噛み付くことを混同しがち」と心配されるほど寅子イズムに感化され、理想に突っ走っているくらいだ。

一方、貫禄の寅子とは対照的に、「父親」初心者を邁進中なのは航一だ。心に蓋をし、長く育児にも家庭にも関わってこなかった経験値不足の分、のどかの結婚話に狼狽え、優未が大学院をやめると言うと、頭ごなしに反対する。

優未は、修士課程・博士課程と進むたび、この先にお前の椅子はないと言われてきたこと、男女関係なく椅子がとても少ない世界であり、戦う自信がない、寄生虫の研究を嫌いになりたくないからやめるのだと話すが、やはり航一は反対。

そこに寅子が現れ、「優未の道を閉ざそうとしないで!」「どの道を、どの地獄を進むか、諦めるかは優未の地獄」と言う。9年近くの時間を無駄にするのかという航一には「努力した末に何も手にしなかったとしても無駄じゃない」と優未の意思を尊重する。

「あなたの進む道は地獄かもしれない。それでも進む覚悟はあるのね?」という寅子の問いは、寅子がかつて母・はる(石田ゆり子)から覚悟を問われた言葉だ。一見、親から子へ、そしてまたその子へ受け継がれる良い言葉のようだが、優未はむしろ好きなことで狭き門を争うという地獄から逃げたいわけで、逆に、まだ何も見えていない行く先はある意味可能性に満ちているのに、どのみち「地獄の道」と決めつけるのはどうなのか。

学んだことが直接でなくとも、何かに生きることは多々ある。とはいえ、博士課程まで進んであっさり中退できるのは、経済的に恵まれた「持てる側」の発想で、お嬢さん育ちの寅子イズムが受け継がれているのかもしれない。

ところで、様々な要素が詰め込まれた今週、若干散漫な印象があったのは、最終盤で取り上げる問題があまりに惨く重い事件の裁判のためか。それは、「尊属殺」の問題だ。

よねと轟のもとに美位子(石橋菜津美)が相談に来る。美位子は父親からの長年の虐待に耐え、母親が逃げた後には父親と夫婦同然の生活を余儀なくされ、2人の子どもを産まされた。しかも、仕事先で恋人ができ、結婚しようとすると、父が怒り狂って家に閉じ込め、暴力を振るい、耐えかねて父を殺したという惨い事件である。

「尊属殺」とは、自己または配偶者の直系尊属(親や祖父母)を殺す罪が普通の殺人より罪が重く規定されたもので、法の下の平等(憲法14条)に反する明らかな憲法違反として、かつて穂高教授(小林薫)が声をあげたもの。あれから約20年後、本当の「平等」に向けてこの事件がどう描かれるのか。

また、常に公平で、政府与党が裁判所の判決に偏りがあるとして、司法に介入しようとすることに強く異を唱えた桂場の変化・変節も最終盤の見所の一つになりそうだ。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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