【虎に翼】仲野太賀の芝居が上手すぎてツラい...強いヒロイン・寅子(伊藤沙莉)に惹かれる2人の「臆病で優しい男」

【前回】現代に続く「理不尽」を乗り越えたヒロインだが...多くの女性たちの「無念」に涙が止まらない

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「2人の臆病で優しい男」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

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吉田恵里香脚本×伊藤沙莉主演のNHK連続テレビ小説『虎に翼』の第7週「女の心は猫の目?」では、優三(仲野太賀)が法曹の道を諦め、直言(岡部たかし)の工場に住み込みで働くべく猪爪家を出る一方、寅子は雲野(塚地武雅)の事務所で弁護士実務を学び始める。しばらくすると修習を終えた花岡(岩田剛典)は試験にパスして裁判官になることに。

お祝いは花岡の希望により二人で行うことになり、はる(石田ゆり子)と花江(森田望智)はプロポーズされるのではないかと盛り上がるが、花岡は佐賀地裁への赴任が決まったと寅子に伝え、二人は握手して別れる。花江らにけしかけられたからとはいえ、新調したワンピースに口紅もつけて出かける程度には寅子も花岡を意識したのだろう。花岡は、そんないつもと違う寅子にすぐ気づく「一握り」の男だが、寅子が自分も早く立派な弁護士になりたいと語る姿に、言葉を飲み込んでしまう。

女子部からの仲間たちがみんないなくなり、花岡も去り、寂しさが増す中、視聴者の心の支えとなっているのが、轟(戸塚純貴)と、高等試験に再び落ちて、寅子と同じく雲野事務所で働き始めたよね(土居志央梨)の存在だ。1940年10月、修習を終えて寅子はついに弁護士資格を取得する。寅子が第1話冒頭で見ていた新聞の脇にあったスクラップ記事に添えられた「たしかで(でかした)」の直言の文字は、このときのものだ。

しかし、弁護士になっても、女というだけで依頼人に嫌がられ、法廷に立てずにいる中、久保田(小林涼子)が女性弁護士として初めて法廷に立つ。実は久保田は結婚して妊娠中だった。

その裁判傍聴後、寅子とよね、轟は花岡とばったり遭遇する。花岡の傍らには可憐な女性がいて、花岡は婚約者だと紹介する。衝撃を受けた寅子は、帰宅後、両親に見合い相手を探して懇願。しかし、これは失恋の痛みではなく、自分がまだ法廷に立てない理由「結婚していること=社会的信頼度」として、弁護士として法廷に立つための手段として結婚を決意したのだ。しかし、年齢を重ね、弁護士資格まで持つ寅子の見合いのハードルは、第1週よりはるかに高くなっている。

一方、轟とよねは花岡を呼びつけ、寅子への思いを問い質す。花岡は、婚約者が家庭に入り、赴任先についてまわり、父の面倒も見てくれると言い、さらに寅子に弁護士の道を諦めて嫁に来て欲しいとは言えないという本音を打ち明ける。花岡はそもそも寅子を尊敬していたわけだから、寅子の道を邪魔するプロポーズなどできないと考えたのだろう。それでも寅子への思いがまだあり、他の女性との婚約が不誠実だと感じているからこそ、再会した3人とあまり目も合わせず、その間に見えない壁がはっきりできていたのだろう。このあたりの花岡の中の人・岩ちゃんの距離感が出色だ。

花岡は轟とよねに呼び出されたときもその壁を必死に保っていたが、轟に「本当にそれでいいのか?」と問われると、ふいに壁が瓦解し、「友達」の距離に戻る。花岡の決断自体を否定するのではなく、「もっと誠意のある伝え方があっただろう」と指摘する轟は、いちいち正しい。ぶん殴ろうと思っていたけど、その価値もない、お前はあいつにふさわしくないと吐き捨てるよねの全力友情にもグッとくる。でも、花岡が不誠実なのは、誠実にはくだせない決断だったからだ。そこに花岡の弱さが見える一方、「ここからは何も間違わず正しい道を進むと誓うよ」の言葉に危うさ、不穏な未来を感じる。

そこから寅子のお相手として浮上するのが、優三だ。寅子は優三を家族のようなものと言っていたのに、なぜ優三を忘れているのかという声も一部視聴者から出ていたが、家族だからこそ対象外だったのだろうし、優三がそれに気づかないわけがない。

まして「書生」だった自分とお嬢さんという関係に加え、法曹を諦めた自分と女性弁護士という格差もある。しかし、優三の魅力はそうした劣等感など、自分のお気持ちを優先せず、寅子の社会的地位のために自分が役立つと判断し、動けること。しかも、職場で顔を合わせる直言に相談するのではなく、まず寅子に伝え、その気持ちを尊重すること。さらに尊重が行き過ぎて、緊張でお腹が痛くなるくらい思い切ったプロポーズだったのに、「それは優三さんも社会的地位が欲しいと?」という寅子の誤解に、一瞬ビックリしてフリーズしつつも、「...はい、そうです! 独り身でいる風当たりの強さは男女共に同じですから」と"利害関係の一致"として受け入れてしまうこと。仲野太賀の芝居が上手すぎて、その心情変化があまりにわかるだけに、観ていてかなり辛い。

寅子と優三は婚約、寅子は初めて裁判を任される(これは寅子が得た社会的信頼よりも、雲野先生のずぶ濡れの犬のようなウルウルした瞳に、押しに弱そうな依頼人が押し切られた形だろうが)。

二人は結婚。一緒に休む初めての夜、優三は緊張しなくて良い、指一本触れないと言う。さらに、自分がずっと好きだったと伝え、戸惑う寅子に、見返りは求めないから、今まで通り書生として接してくれて良い、と言うのだ。花岡も優三も、どちらも優しく、寅子を思っているのに、コミュニケーションを放棄して自分の中で完結させてしまう臆病さが辛い。なんでも「はて?」で食い込み、見合いを断られた理由を言いよどむ父にも「隠さずに教えてください」と正面から向き合う寅子の強さと対照的だ。だからこそ二人とも惹かれたのだろうけど...。

それにしても、戦争で中山(安藤輪子)夫は借り出され、男手が不足する中、女性の社会進出が便利な駒のように急速に進み、街の中には「ぜいたくは出来ない筈だ!」の看板が立ち、寅子の家の中が金物供出でスカスカになり、寅子が結婚したのは昭和16年11月。この時点ですでに戦争は始まっている中、それを寅子たちはまだ我が事ととらえておらず、この翌月に真珠湾攻撃が起こる。それを思うと、戦争はやはり知らないうちに始まっているのだとゾッとし、『虎に翼』の構成の凄みを改めて感じるのだった。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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