【前回】涼子さま(桜井ユキ)との再会も...同時に複数の「拠り所問題」を描き切った脚本の凄さ
毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「事実を描く=攻めてる?」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
NHK連続テレビ小説『虎に翼』の第18週「七人の子は生すとも女に心許すな?」では、「差別」と「戦争」がストレートに描かれた。かつて実際にあった「事実」を描き、繰り返してはいけないというメッセージを伝えること。そんな当たり前のことを、戦争で多くの命が奪われた8月に放送するのが今では朝ドラくらいであること、それを「攻めてる」と感じてしまう現状に改めて背筋が寒くなる。
寅子は航一(岡田将生)と入倉(岡部ひろき)との合議体で、放火事件を担当する。スマートボール場で発生した火災は、火災保険金目当ての犯行と断定され、経営者で朝鮮人の金顕洙(許秀哲)が逮捕される。顕洙の弁護を杉田太郎(高橋克実)・次郎(田口浩正)兄弟が引き受け、裁判が開始。
兄・金顕洙の無実を訴え、喚く弟・広洙(成田瑛基)が退廷させられそうになる中、傍聴席に座っていた小野(堺小春)は拙い朝鮮語で声をかけ、それを制止。小野にはかつて朝鮮人の恋人がいて、親の猛反対に遭い、別れさせられた経緯があったのだ。
入倉の様子が気になった寅子は昼食に誘い、航一と3人、喫茶ライトハウスで食事をする。顕洙の犯行と断定する検察に、火のないところに煙は立たずと言い、同調する入倉。そこで、航一は静かに問いかける。
「入倉君は昭和生まれですからね。佐田さんも関東大震災はあまり記憶にない? じゃあ、あのとき『朝鮮人が暴動を起こした』という流言が飛び交って、大勢の罪のない朝鮮人が殺されたことは? 差別が生まれる理由は様々です。『火のないところに煙は立たぬ』で終わらせるのか、それともその煙をあげたのは誰なのかを見極めるのか」