【虎に翼】朝ドラ視聴者が気にしていた「彼女」の悲しい結末。本作が何度も伝え続けたメッセージは...

【前回】本当の「平等」に向けて...残り3週で描かれる惨く重い事件。最高裁長官・桂場(松山ケンイチ)の変化・変節が気になる

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「本作が伝え続けたメッセージ」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【虎に翼】朝ドラ視聴者が気にしていた「彼女」の悲しい結末。本作が何度も伝え続けたメッセージは... pixta_99612829_M.jpg

NHK連続テレビ小説『虎に翼』の第25週「女の知恵は後へまわる?」が放送された。

今週含めて残り2週。ここまできてもまだ、というか、ますますシビアな闘いが続いている本作。何しろ最終盤で描くのは、今もなお議論が続く「少年法改正」の問題、そして本作が描いてきた男女差別や家制度などが複合的に詰まった「尊属殺」の裁判だ。

どちらも「法の下の平等」に対して「法律」のあり方を問うもの。そこに触れるべきか否かという難しい問いにおいて中心となるのが、最高裁長官・桂場(松山ケンイチ)である。

「法改正」ありきで議論が進む少年法の問題に寅子(伊藤沙莉)は苛立つ。

一方、「尊属殺」は身内殺しの罪が普通の殺人より罪が重く規定されたもので、法の下の平等(憲法14条)に反する明らかな憲法違反として、かつて穂高教授(小林薫)が声をあげた問題でもある。そこから20年を経て起こったのが、父親からの長年の虐待と性暴力の末、子どもを産まされ、恋人ができた途端に監禁・暴力で追い詰められ、父を殺した美位子(石橋菜津美)のあまりに悲しい事件だ。

もし穂高が声をあげたときに尊属殺が憲法違反と認められ、改正されていたら、美位子のような犠牲者は出なかっただろうか。法改正が遅々として進まない問題が浮かび上がる。

美位子はよね(土居志央梨)と轟(戸塚純貴)の事務所に身を寄せる。よねは、ここにいると落ち着くと言う美位子を受け入れつつも、依頼人の話を盗み聞きするためならやめろと言う。

「人を見て安堵したり、自分の身に起きたことと比較したりするのはやめろ」「何か抱えているやつはどっかしら生きるために無理をしている。どうってことないふりをしてごまかさないとやっていけないことがある」

ここに来て、よねの過去――姉が女郎として売られ、自らも売られそうになって「女をやめる」と決意して東京へ逃げ、姉のトラブルを解決するために中年弁護士に金と引き換えに体を委ねた――が被害者への寄り添いになるとは。しかし、そうした「クソな」人間による「クソな」出来事、「この世界が、法律がどうしようもなくクソなだけ」という現実と戦うために、よねは弁護士になったのだった。他人の不幸を見て自分を慰めようとする美位子の出口の見えないトンネルに、よねの「お前が可哀想なわけでも、不幸で弱いわけでも決してない。それだけはわかってくれ」の言葉は一筋の光となったのではないか。

一方、勉強会に熱心に参加していた朋一(井上祐貴)は、最高裁事務総局から家裁に異動を命じられる。リベラルへの見せしめのように見える突然の人事に憤慨する朋一。この一件からも多岐川(滝藤賢一)が作った「愛の裁判所」は左遷先のような扱いであることがわかるが、裁判官をやめる決断をする朋一におそらく背中を押されたのは父・航一(岡田将生)だった。

総力戦研究所にいた若きエリートが、自責の念で心に蓋をして以降、寅子との出会い・事実婚で夫として、父として、人間として成長しているのはわかる一方、法曹としては何をしているのか正直よくわからなかった。しかし、そんな航一が美位子の事件について山田轟法律事務所で話を聞いた上で、最高裁長官・桂場(松山ケンイチ)に、尊属殺の重罰規定が合憲か違憲か大法廷で判断するよう求める。ここでもまた「時期尚早」と言う桂場に、一度は「なるほど」と引き下がった航一だが、踵を返し、反論。

「法は法、道徳は道徳だと思いますが」

人は間違える、だから法がある、だから法について考える際に万全な時を選ぶと言う桂場に、航一は激昂。

「たとえどんな結果になろうとも、判決文は残る! ただ何もせず、人権蹂躙から目を逸らすことの何が司法の独立ですか」

珍しく興奮したためか鼻血を出し、倒れる航一と、それを受け止め膝枕する桂場、そこに駆け付けた寅子の混乱、足が痺れて動けない桂場、吹き出す寅子という一連の描写はやや漫画的だ。

しかし、寅子は桂場に対して、桂場が若き判事たちに取り返しのつかない大きな傷を残したこと、一生許されないこと、それでも司法の独立のために共に闘い続けるしかないことをキッパリと伝える。

この青臭く面倒臭い正論は、心が折れる前、「はて?」を封印される前の寅子だ。最終盤に戻ってくる寅子。と同時に本作では何度も何度も「怒りの声をあげること」「言葉でしっかり伝えること」「苦しんだ側は、それを許さなくても良いこと」「力で弾圧・虐げた側はその責任を背負い続ける覚悟が必要であること」を伝え続ける。

そしてもう一つ、視聴者の中でずっと気になっていた美佐江(片岡凛)の悲しいその後も判明する。美佐江(片岡凛)そっくりの美雪(片岡凛、二役)の審判の後、寅子のもとに佐江子(辻沢杏子)が訪ねて来る。佐江子は美佐江の母だった。

美雪は美佐江の娘で、美雪が3歳のときに美佐江は車でひかれて亡くなっていた。寅子は美佐江の手帳に書かれた言葉から、自分が美佐江の救済にあと一歩だったことを知る。

新潟編では町の有力者の父以外、美佐江の家庭環境があまり見えないことが気になっていた。しかし、おそらく権力者の娘で、容姿にも学力にも恵まれ、周囲にチヤホヤされ、自分を特別視する美佐江にとって、父が下に見ていた母は「透明な存在」だったのだろう。そして、東京に行くとそんな特別視されていた美佐江も、おそらくどこにでもいる女の子になるだろうと予感していたが......寅子がどうしても理解できなかった少年犯罪は、なんとも後味の悪い結末を迎えた。

ここにもまた「考え続けること」「理解できなくても、手を差し伸べ続けること」「闘い続けること」の重要性が描かれているのかもしれない。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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