高齢者専門の精神科医が「子どもや孫に財産を残さなくていい」と断言するワケ。残すべきは財産ではなく...

財産を残すと争いが起こりがち

遺産そのものが不幸を招くこともあります。いわゆる、相続争いです。

「うちの子どもたちに限って、そんなことは起きないだろう」と思うのは楽観的すぎます。親が死んだとたんに、エゴむき出しでお金の話を始める子どもたちは、いくらでもいます。子ども自身はそうでなくても、その配偶者が争いを始めることも多くあります。

特によく見られるのが、介護を担(にな)った子どもと、そうでない子どもの争いです。

法的には、介護をしようとしまいと、遺産は平等に分けられます。かいがいしく世話をした子どもにとっては、たしかに理不尽な話です。

「ならば遺言書をつくっておけば大丈夫」と思うのも、これまた楽観的すぎます。

たとえば、世話をしてくれた長男に全財産を相続するという遺言書を残しても、次男が「遺留分」を主張することもできます。

さらには、「本人はそのとき、もう判断能力がなかった」などと主張して、遺言書が無効であると主張することもあります。

もちろん、すべての子どもがそうなるわけではありません。しかし、お金を目の前にすると、人の心はえてして醜くゆがむということも、念頭に置いておきましょう。

社会も自分も幸せになる使い方を

私はかねてから、「親を介護した子ども、農林水産業を営む家の子ども、親の店や工場などを継ぐ子どもは例外として、相続税を100%にすべき」という提言をしています。

相続税が100%なら、いくら財産があっても子どもには一銭も入りません。「だったら、自分で使おう」と、親はきっと思うでしょう。結果、経済が活性化します。

財産が全部税収になれば国庫も潤います。相続税収が上がれば、消費税の減税もでき、若い世代の負担が減ります。

企業も、高齢者向けの商品やサービスの開発に力を入れるでしょう。元気な高齢者が増えて健康寿命が延びれば、国の医療費負担も減ります。そして何より、高齢者自身が、幸福な老後を送れます。

相続税100%は残念ながら実現しそうにありませんが、みなさん一人ひとりが「残してやりたい」という意識から解放されることを願います。

世の中が、子どもたちが、そして自分自身が幸せになるお金の使い方を、今日からぜひ、始めてください。

<POINT>
自分の楽しみや充実のためにお金を使えば、次の世代も幸せになる。

 

和田秀樹
精神科医。1960年、大阪府生まれ。1985年に東京大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院、国立水戸病院、浴風会病院精神科、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローなどを経て、現在、立命館大学生命科学部特任教授。映画監督としても活躍している。1987年のベストセラー『受験は要領』以降、精神医学・心理学・受験関連の著書多。近著に『老いの品格』『頭がいい人、悪い人の健康法』(ともにPHP新書)、『50歳からの「脳のトリセツ」』(PHPビジネス新書)、『60歳からはやりたい放題』『60歳からはやりたい放題[実践編]』(ともに扶桑社新書)などがある。

※本記事は和田秀樹著の書籍『60歳からは、「これ」しかやらない 老後不安がたちまち消える「我慢しない生き方」』(PHP研究所)から一部抜粋・編集しました。
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