カスハラ被害の黙認も犯罪!? 組織内の地位や役割を利用し、時に無自覚に行われる「ホワイトカラー犯罪」

犯罪への無自覚さ

逮捕された前社長は、違法行為の自覚はなかったと供述している。役職に就いていた人物にその認識がなかったかについては疑問の余地が残るものの、悪いことをしているという思いがないまま、ホワイトカラー犯罪がおこなわれることは珍しくない。

というのも、上司からの命令や指示、教唆によってプレッシャーをかけられれば、心理的圧力に屈してしまい、本人は不本意でも逸脱行為に走らざるをえなかった......という事態は往々にして起きるからだ。

多くの場合、犯罪をおこなった自覚がある人は「なんてことをしてしまったんだ」「捕まるのがこわい」など、後悔や恐怖心で葛藤したりと悪行に伴う感情が沸き上がる。ところが、ホワイトカラー犯罪では、組織人たらんがために犯行に及んでいるため、その組織の反応に影響されやすい。「周囲からどう評価されるだろう」「周りの人たちにどんな感情を持たれるだろう」という思いばかりで、組織内の評価が最大の関心事になるのだ。

カスハラを見過ごし、被害者である従業員を切り捨てる企業も同じだ。プレッシャーに屈して「客に嫌われてはいけない」「悪評が立ったら大変だ」と、評価ばかりが重要視され、被害に対する責任や従業員への義務も、カスハラに加担している自覚もない。

ホワイトカラー犯罪の対策方法

では、こうしたホワイトカラー犯罪を防ぐには、どのような対策ができるのか。犯罪心理学の基本的な考えを思い出してみよう。「加害者」「被害者」「監視の有無」の三要素に加え、「時間・空間」が合致することがないようにしなければならない。状況に依存する「人間性悪説」の視点に立つことで、予防策を講じていくのだ。

ホワイトカラー犯罪者の特徴の「成功願望」の強さや組織への「忠誠心」は企業にとっては好ましいポイントだったりする。優秀な人や高い地位にある人、信頼の厚い人でも、手を染めやすいホワイトカラー犯罪に対しては「どんな人でも悪事を働くリスクはある」という考えに基づいて対策を講じねばならない。

個人が抱えていた原因、違法行為を許した状況的な原因、その行為に走らせた社会的な原因。こうした複数の要因は、実証的なエビデンスに基づいて明らかにすることができる。不正を防ぐシステムの構築とともに、ホワイトカラー犯罪を生み出さない組織へと体質を変えることが対策の要になる。

 

桐生正幸

東洋大学社会学部長、社会心理学科教授。山形県生まれ。文教大学人間科学部人間科学科心理学専修。博士(学術) 。山形県警察の科学捜査研究所 (科捜研)で犯罪者プロファイリングに携わる。その後、関西国際大学教授、同大防犯・防災研究所長を経て、現職。日本犯罪心理学会常任理事。日本心理学会代議員。日本カスタマーハラスメント対応協会理事。著書に『悪いヤツらは何を考えているのか ゼロからわかる犯罪心理学入門』(SBビジュアル新書)など。

※本記事は桐生正幸著の書籍『カスハラの犯罪心理学』(集英社インターナショナル)から一部抜粋・編集しました。
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