カスハラ被害の黙認も犯罪!? 組織内の地位や役割を利用し、時に無自覚に行われる「ホワイトカラー犯罪」

ホワイトカラー犯罪

ホワイトカラー犯罪(White Collar Crime)とは、次のように定義される違法行為のことだ[新田 2003]

合法的組織体活動に従事する者が、組織の利益目的実現の為に業務機構を活用し、あるいは私欲充足の為に自己の組織上の地位、役割、社会的信用を利用して犯す違法行為

生産現場で働く「ブルーカラー」の対義語の「ホワイトカラー」は、白い襟(Collar)のシャツを着る管理業務のような職種を意味している。頭脳労働や管理職、行政に携わる者や専門家などの立場にいる者が、その地位や権限を悪用しておこなう犯罪だ。

ホワイトカラー犯罪の主な罪種としては、「脱税」「偽造」「マネーロンダリング」「詐欺」「贈収賄」「損失隠し」「横領」「虚偽広告」「独占禁止法違反行為」などが挙げられる。個人情報への不正アクセスや、スパムメールによるフィッシング詐欺など、「サイバー犯罪」もホワイトカラー犯罪だ。

そして、社内や職業的な権限を使って「パワーハラスメント」「セクシャルハラスメント」をすることも、ホワイトカラー犯罪にあたる。カスハラの黙認も、これにあてはまって当然だろう。

組織人による犯罪

ホワイトカラー犯罪は、暴力や殺傷行為が見られない犯罪のうち、とくに信頼関係や財産などを標的にしたものだ。組織を利用した犯行という点では、反社会勢力の犯罪と共通しているが、ホワイトカラー犯罪では公共社会で承認されている組織絡みという点で違ってくる。

反社会的集団に属する、あるいはそう自称している人は、それとは無縁の人から見てもわかりやすいはずだ。皆が皆というわけではないが、反社会性をアピールする装いや振る舞いが見られる。それに対して、ホワイトカラー犯罪者は一見"普通の人"に見える。犯罪心理学の視点でこうした人の性格を考えると、「組織の一員」であることがその人の個人的性格の特徴を変えていき、反社会的価値を内在化した社会的性格をつくっていると言える。平たく言えば、組織人であるために、悪いことにも手を染めてしまうのだ。ホワイトカラー犯罪に手を染める人は、「成功願望」「失敗恐怖」「組織忠誠心」が強い傾向があり、「成功したい」「失敗したくない」「会社のために」という思いから悪事を働き、同じ理由で犯行を合理化する心理的要因がある。

2022年、かっぱ寿司を運営するカッパ・クリエイトの元社長が、前職の仕入れに関する営業機密を持ち出し、不正競争防止法違反で逮捕された。若くして役職に就いたエリートで、コロナ禍で打撃を受けた飲食業界での期待に応えなければならない状況を想像すれば、成功願望や失敗恐怖という心理的要因は十分に考えられる[日本経済新聞 電子版 2022年10月7日]

 

桐生正幸

東洋大学社会学部長、社会心理学科教授。山形県生まれ。文教大学人間科学部人間科学科心理学専修。博士(学術) 。山形県警察の科学捜査研究所 (科捜研)で犯罪者プロファイリングに携わる。その後、関西国際大学教授、同大防犯・防災研究所長を経て、現職。日本犯罪心理学会常任理事。日本心理学会代議員。日本カスタマーハラスメント対応協会理事。著書に『悪いヤツらは何を考えているのか ゼロからわかる犯罪心理学入門』(SBビジュアル新書)など。

※本記事は桐生正幸著の書籍『カスハラの犯罪心理学』(集英社インターナショナル)から一部抜粋・編集しました。
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