理不尽なカスハラにより精神疾患になることも。従業員の心を守る「メンタルヘルスケア」の重要性

『カスハラの犯罪心理学』 (桐生正幸/集英社インターナショナル)第4回【全7回】

従業員を高圧的に攻撃し苦しめる「カスタマーハラスメント(カスハラ)」。コロナ禍を経てますます増加したカスハラから従業員を守るため、企業は早急な対策を求められています。犯罪心理学者の桐生正幸氏は、著書『カスハラの犯罪心理学』(集英社インターナショナル)で、豊富な調査実績をもとにカスハラが起こる理由とその対策を提案。いまや社会問題化しているカスハラの事例を通し、従業員や自身の心を守る方法、そして「客」としての自分自身を見つめなおしてみませんか。

※本記事は桐生正幸著の書籍『カスハラの犯罪心理学』(集英社インターナショナル)から一部抜粋・編集しました。

企業も消費者も成長する取り組み

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※写真はイメージです(画像提供:ピクスタ)

接客応対者のメンタルダメージ

ここまで、カスハラ加害者の心理構造と、カスハラを容認する社会構造を概観してきた。本稿では、カスハラへの具体的な対策にフォーカスしてみよう。

2019年時点で、厚生労働省がカスハラによる精神障害を労災認定した人の数は、過去10年間で78人だった、そのうちの24人は自殺してしまっている。カスハラによるストレスは深刻な問題だ[毎日新聞デジタル 2019年10月23日]

UAゼンセンが2017年におこなった調査データでは、カスハラ被害の経験から受けた影響を尋ねる質問をしたところ、カスハラ被害を受けた人のうち約9割にあたる3万9132人が、心理的ストレスなどを感じたと答えている[桐生 2020]

そのうち「軽いストレスを感じた」のは35.5%(1万3883人)、「強いストレスを感じた」のは52.9%(2万689人)だった。一部の人にいたっては「精神疾患になったことがある」(375人)と回答している。調査を受けた半分以上が強いストレスに晒されていたことがわかる数字だ。

また、UAゼンセンが2020年におこなった調査を私が分析した際には、コロナの影響が「ある」と回答した人の方が、「ない」と回答した人よりも心身の変化を経験していることがわかった。コロナ禍の影響を体感している人ほど、カスハラ被害で「繰り返しの恐怖」「睡眠不足」や「心療内科などへの通院」といった心身の変化を経験している。コロナ禍でカスハラの理不尽さが増し、より多くの人々が心身の不調をきたしてしまった。

「従業員を守ったり、ケアしたりすることを義務づける法律が欲しい」

企業で担当者たちが、しばしば私にかける言葉の1つだ。社内では表立って言うとリスクがあるから黙っている人たちもいるだろう。けれど、本心では多くの人たちが「悪質クレーマーをどうにかしたい」「対応した従業員たちをケアしたい」と切実に思っている。

 

桐生正幸

東洋大学社会学部長、社会心理学科教授。山形県生まれ。文教大学人間科学部人間科学科心理学専修。博士(学術) 。山形県警察の科学捜査研究所 (科捜研)で犯罪者プロファイリングに携わる。その後、関西国際大学教授、同大防犯・防災研究所長を経て、現職。日本犯罪心理学会常任理事。日本心理学会代議員。日本カスタマーハラスメント対応協会理事。著書に『悪いヤツらは何を考えているのか ゼロからわかる犯罪心理学入門』(SBビジュアル新書)など。

※本記事は桐生正幸著の書籍『カスハラの犯罪心理学』(集英社インターナショナル)から一部抜粋・編集しました。
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