87歳で活躍中の若宮正子さんが語る「年相応な服を着なくちゃいけないの?」

定年後に母の介護をしながらパソコンを始め、2016年からはアプリの開発を開始。17年に米国アップルによる世界開発者会議「WWDC 2017」に特別招待され、現在、岸田首相主催のデジタル田園都市国家構想実現会議構成員としても活躍中の若宮正子さんに「年相応な
服」について伺いました。

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この世には「人からどう見られるかに気を配る人」と「人からどう見られてもいいから自分の好きにやる人」がいるように思います。

かく言う私は後者。

といって世間体を気にする人を批判する気など毛頭ありません。

人の目を意識することでシャキッとするということもあるでしょう。

価値観は人それぞれ。

生き方に正解などないのです。

それにしても、世間体より自分の好きに生きることを優先するタイプの私にとっては、「年相応」という言葉はなんだか窮屈なんですね。

時折、「もう年だから」と地味な服を選択している同世代の方に遭遇しますが、私は「本当はどうしたいのかしら?」と自分の心に問いかけてみてほしいなと思います。

もしかしたら華やかな色の服に憧れる気持ちが潜んでいるかもしれません。

私にもそうした節がありまして......。

思春期の頃、日本は戦後の焼け野原状態できれいな色の洋服を着ている人などいませんでした。

やがて日本人の暮らしは少しずつ豊かになって、アメリカ映画などの影響を受けておしゃれという文化が育まれていきます。

でも銀行に就職した私には地味な制服の思い出しかありません。

カラフルなファッションとは無縁なまま40年勤めて定年を迎えました。

その後は母の介護に追われ、100歳まで生きた母を見送って、ふと気付いたら70代半ば。

自分の心に問いかけることもせず、おしゃれ心に蓋をしていたのですが、パソコンとの出合いによって私の装いは激変したのです。

定年後にパソコンを購入したのは、母の介護で人に会えなくなることを見越してネットで人とつながりたいと考えたからでした。

パソコンに触れる中でエクセル(マイクロソフト社が開発した表計算ソフト)を覚え、やがてシニア向けのパソコン教室でエクセルの先生をするようになりました。

そんなある日、エクセルって図案づくりにも活用できるんじゃないかしら?と閃いたところから誕生したのが、マス目に色を塗ったり、線を引いたりして作るエクセルアートです。

最初はカラフルな柄のうちわやブックカバーを作ってみました。

そこからエクセルアートでデザインした生地で洋服を仕立てようという発想が生まれ、洋服を作ったら着てみたくなって......。

鏡の前に立ってみたら悪くなかったんです。

白髪とカラフルな服は相性がいい!なんて思ったりして。

この服を着て出かけたら新しい出会いがあるかもしれないと、自分でも驚くほどワクワクしました。

それに褒められるとお世辞だと分かっていてもうれしい。

というわけで、すっかりその気になっていまに至りますが、この「その気になる」というのが大事だと思うのです。

誰がなんと言おうと、私はいまがカラフルな洋服適齢期なのだと思えて心がうれしくなるのです。

エクセルアートを紹介したいという気持ちもあって、「徹子の部屋」に出演したときは、赤と黒の市松模様に緑のクリスマスツリーを配した生地でブラウスを作って着ていきました。

現在、放映中のACジャパンのコマーシャルではブルーに薄紫の花の柄のシャツを着ています。

もしかしたら「いい年をして」と思う人がいるかもしれません。

でも私は価値観の合わない人のことは放っておけばいいんじゃない?と思うだけ。

この開き直り力が高齢者の強みです。

ファッションに限らず、80代の人がエアロビクスをしてもいいし、世界一周旅行を夢見たって、アイドルにときめいたっていいんです。

自分の心が喜ぶことをみつけた人にとって年齢はただの数字。

「年相応」という言葉に縛られて「私はこんな服が着てみたい」と思う気持ちにブレーキをかけてしまうのはもったいない、というのが私の考えです。

イラスト/樋口たつ乃

 

<教えてくれた人>

若宮正子(わかみや・まさこ)さん

1935年東京生まれ。東京教育大学附属高等学校を卒業後に、銀行へ勤務。定年後に母の介護をしながらパソコンを始める。2016年にアプリの開発を始め、17年に米国アップルによる世界開発者会議「WWDC 2017」に特別招待される。現在、岸田首相主催のデジタル田園都市国家構想実現会議構成員としても活躍中。

この記事は『毎日が発見』2023年1月号に掲載の情報です。

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