87歳で活躍中の若宮正子さんが語る「老後の資金を備えておかなきゃいけないの?」

定年後に母の介護をしながらパソコンを始め、2016年からはアプリの開発を開始。17年に米国アップルによる世界開発者会議「WWDC 2017」に特別招待され、現在、岸田首相主催のデジタル田園都市国家構想実現会議構成員としても活躍中の若宮正子さんに「老後の資金」について伺いました。

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はじめまして。

若宮正子と申します。

87歳になる私が「この年齢になったから分かること」を通して、皆様の毎日を真に豊かにしていくためのヒントをお伝えしていくというのがこの連載のテーマです。

どうぞよろしくお願いいたします。

さて、人生100年時代を迎え、「備えあれば憂いなし」という言葉がことさら心に響くという方も多いのではないでしょうか。

でも私は本当に備えてさえいれば憂いはないの?と思うのです。

逆説的にいえば、備えなんてなくても何とかなるというのが持論。

なにしろ戦後の誰もが貧しい時代を生きてきた世代ですから。

とはいえボンヤリとしていて安泰に生きていけるほど人生は甘くはないといえそうです。

そもそも将来の不安を抱えてハラハラしている人に限って世の中のことを広く見ていません。

見えていないから不安なのではないでしょうか?

世の中は刻々と移ろっています。

例えば私が若い頃は「三白」といって、白いものを扱うお砂糖と紙とセメントの会社に就職すれば安心だと誰もが信じて疑わなかったのです。

でもいまはどうでしょう?

絶対に潰れることはないと思われていたような大会社だって倒産してしまう時代です。

こうしたことを踏まえ、まずは、この世に絶対はないのだから、先のことを考えて鬱々としていても仕方がないと開き直ることです。

といって「もうどうなってもいい」などと人生を放り投げてはいけません。

ここはバランス。

コロナになった2020年にマスクが手に入らないと大騒ぎになったことがありました。

そうしたときに買い占めようと考えるのも愚かですが、早々に諦めてしまうのも愚かしい。

途方に暮れることのないよう必要な分だけ買っておこうと考えるのが妥当だと思います。

お金だって同じです。

病気になったときなどに備えて、ある程度貯金しておくべきでしょう。

といって必要以上に貯め込んだところで、あの世にお金を持っていけるわけじゃなし。

そこでお金を貯めるという発想は手放し、今日暮らしていける分があれば良しと捉えて、楽な気分になるのが得策です。

少し前に2000万円ないと年金だけでは賄えないという問題が大きな波紋を呼んでいましたが、そんなことを気にしていたらキリがない。

日本ではますます少子化が進み、景気回復が難しいとされているのですから、今後、老後の自己資金は3000万円ないと、いや4000万円は必要だとなっていくことでしょう。

だったらどうすればいいの?という声が聞こえてきそうですが、悶々としている暇があるのなら働くことをおすすめします。

私に言わせれば60代、70代はまだまだ若い。

十分に働けます。

しかもシニア雇用が進んでいるのです。

専業主婦として生きてきた方の中には、仕事に就く自信がないという方もいるかもしれませんね。

それなら自分の得意なことを通して収入を得ることを考えてみてはどうでしょう?

同年代の友人に手先の器用さを生かして洋服のサイズ直しを請け負っている人がいます。

それに主婦業や子育てというキャリアを生かすことだってできるのです。

知り合いのライターさんは、70代の親戚の叔母さんに家事全般を依頼し、月々お給料を払っているといいます。

共働きをする娘さんから孫の世話を頼まれ、アルバイト代をもらっている人もいるのだとか。

確かに家事や子育てといった立派な技術や経験をタダで提供する手はありません。

「ヘルパーさんやシッターさんに頼むより格安で請け負うからね」と上手に交渉すれば、仕事をゲットできるかもしれません。

いずれにしても備えるべきはお金ではなく行動力。

これが今回の結論です。

イラスト/樋口たつ乃

 

<教えてくれた人>

若宮正子(わかみや・まさこ)さん

1935年東京生まれ。東京教育大学附属高等学校を卒業後に、銀行へ勤務。定年後に母の介護をしながらパソコンを始める。2016年にアプリの開発を始め、17年に米国アップルによる世界開発者会議「WWDC 2017」に特別招待される。現在、岸田首相主催のデジタル田園都市国家構想実現会議構成員としても活躍中。

この記事は『毎日が発見』2022年12月号に掲載の情報です。

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