すっきり起きれない、いびきがうるさくなったなど、歳を重ねてくると、誰でも大小さまざまな「睡眠」の悩みを抱えます。ただ、その悪い睡眠を放っておくと、思考力や集中力の低下を招き、仕事や生活が不安定になる恐れも。そこで「睡眠を変えれば人生が変わる」と説く医学博士・田中俊一さんの著書『45歳からは「眠り方」を変えなさい』(文響社)から、脳と体を老け込ませる「睡眠負債」をリセットする方法を連載形式でお届けします。
長寿の人の睡眠は何時間?
「毎日、何時間寝るのがいいんでしょうか?」
私が睡眠の専門家だと知ると、多くの方にこのようなことを聞かれます。
実は、それにはもう、統計学が答えを出しています。
私たちの睡眠時間のベストタイムは、「7~8時間」です。
これは、人種も、性別も、関係ありません。
このことは、睡眠時間と死亡率の関係、睡眠時間と様々な病気の発病率を見ると、一目瞭然です。
下のグラフを見てください。
これは、アメリカで1982年から6年間にわたり、111万人以上を対象に行なわれた調査の結果です。
この結果から見ると、男女ともに7・5時間ほどの睡眠をとったときに、死亡危険率が著しく低下することがわかります。
つまり、人類という種においては、長く健康に生きるためには、7・5時間の睡眠がベストである、といえるのです。
「いえいえ、でも、私は6時間睡眠が、一番、調子がいいんです」「8時間眠っても、まだ足りません」とおっしゃる方もいるかもしれません。しかし、人間であれば誰もが、食べたものを消化して活動エネルギーを得、そのエネルギーを摂りすぎれば脂肪が蓄積されて太ってしまうのと同じように、睡眠についての基本的なルールにも差はありません。
長時間睡眠者は、死亡率が高い!?
ところで、上のグラフを見ると、長時間睡眠をとっている人はかえって死亡危険率が上がってしまっているように見えますね。9・5時間以上眠る人の死亡危険率は、3時間しか寝ない人とほぼ同じという結果が出ているからです。健康のためにたくさん眠っている人にとっては、ショックな結果です。
しかし、このグラフから一概には、「睡眠時間が長すぎると健康に悪い」といえないことを補足しておきます。
なぜならこのたくさん寝る層の中には、3タイプの「結果としてたくさん寝てしまっている人たち」が含まれているからです。
「結果としてたくさん寝てしまっている人たち」とは、まず「病気の人」。
この調査は健康状態までは対象になっていませんから、病気だったり、寝たきりに近い人も含まれていたはずです。
このような人たちは必然的に「9・5時間以上の睡眠のグループ」に含まれるため、このグループの死亡危険率が上がってしまっている可能性があります。
また、病気とまではいかなくても、「睡眠の質が悪い人」も多くいます。
つまり、深い睡眠がとれていないために、長い時間、布団に入っている人たちです。
睡眠の質の悪さは病気のリスクにつながりますから、これも死亡危険率を上げる要因です。
最後に「睡眠負債を返している人」です。
例えば20代から50代までは仕事が忙しく、毎日平均して5時間睡眠で頑張ってきた人がいたとします。
この人が仕事を引退してから長時間寝るようになる、というのはよくある話です。
これは現役時代の不足していた睡眠(睡眠負債)を、人生の後半で返済していると考えられます。
睡眠負債を抱えている人は、同時にあらゆる病気のリスクも抱えていますから、同じように死亡危険率をアップさせてしまいます。
実際、先日、ある大ベテランのコメディアンの方とテレビの収録でお会いしましたが、そのとき彼は、「毎日8時間寝て、さらに3時間昼寝をしても、また夜はすぐに寝られる」とおっしゃっていました。
驚いてさらに詳しくお話を伺うと、若い頃に特に多忙な時期があり、約20年間にわたって毎日3時間睡眠を続けていたとのことでした。
まさに今、その睡眠負債を返済しているところといえるでしょう。
このように考えると、長く寝る人たちの中でも、「病気の人」「睡眠の質が悪い人」「睡眠負債を返済中の人」の3タイプが死亡危険率を押し上げてしまっていることがわかります。
ですから、現在健康で、睡眠の質も問題なく、なおかつ長時間寝ているという方は、今の時点で心配することはないでしょう。
そのままの生活スタイルを維持していただければと思います。
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