「利用控え」には注意が必要です。コロナ禍での介護で「気を付けたいこと」

長引くコロナ禍で、介護費用や態勢はどのように変わったのでしょう? 「コロナ禍での介護で注意したいこと」などを、淑徳大学教授の結城康博(ゆうき・やすひろ)先生にお聞きしました。

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新型コロナウイルスが世界的に蔓延し、国内でも感染拡大が収束しない状況が続いています。

病院や診療所などの医療施設に加え、老人ホームやデイサービスといった高齢者福祉施設の介護現場でもクラスター(感染者集団)が発生したことがあり、いま対策の必要性が議論されています。

全国知事会が発表した資料によると、国内の高齢者福祉施設でのクラスター発生数は2020年6月19日の時点で48件。

同時点での国内全体のクラスター発生数は238件でしたので、高齢者福祉施設の割合は約20%です。

やや多く感じますが、介護問題に詳しい結城康博先生は「日本の高齢者福祉施設の数は数万に上ります。割合から考えますと、国内の介護現場はギリギリのところで踏ん張っています」と、評価します。

感染拡大初期に介護現場を中心に多数の死者を出したヨーロッパ各国と比べ、2月の段階で面会禁止などの対策を打ち出したのが奏功したようです。

ただ、結城先生は「秋から冬にかけて感染拡大が進むなら、さらに徹底した対策が必要になります」と指摘します。

高齢者福祉施設は老人ホームのように入所するタイプと、日帰りのデイサービスのように自宅から通うタイプに分かれます。

「入所型ですと面会禁止などで外部との接触を制限できますが、より難しいのが人の出入りが多い通所型です」と、結城先生。

国も問題視しており、6月に新たな対策を打ち出しました。

それが下の図の、介護報酬の特例措置です。


介護報酬の特例措置の仕組み

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ポイント
●新型コロナ対策で施設の費用が増えることや、受け入れ可能人数が減ることで収入減となることへの補助が目的です。
●利用者は同意に基づいて、上乗せされた自己負担分を施設に支払います。
●上乗せされる金額は、デイサービスでは1回につき数十~数百円の場合が多いです。
●上乗せ分を、実費で支払う食費などの値下げで相殺している施設もあります。
●利用者は同意しないこともできます。


この特例は、新型コロナ対策を行うデイサービスなどの施設が利用者の同意を得た上で介護報酬を上乗せできる、というものです。

介護保険を利用する場合は、介護費用全体に対して自己負担分の割合が所得額によって決まり、施設が残りの割合分を介護報酬として所在地の市区町村に申請し、支払いを受けます。

大まかに言うと自己負担分は費用全体の約1~3割になります。

上乗せする際には実際より長時間のサービスを受けたとして介護費用全体が算出されることから、自己負担分もそれだけ増えることになります。

「この特例には賛同できません。予算の都合や緊急性は理解できますが、本来は国が予算を組んで負担すべきで、利用者が支払うべきものではありません」(結城先生)

上乗せにはあくまで利用者の同意が必要ですが、実際はお世話になっている施設から請求されると断りにくいことがあります。

そのため、利用者、施設双方からも疑問の声が上がっているのです。

ただ、施設によっては、実費として支払う食費を値下げして全体の額を調整する、といった工夫を行っているところもあります。

「上乗せには利用者の同意が必要。費用全体をよく見て納得できるなら支払い、納得できないなら同意しない、と考えるのがいいと思います」(結城先生)

費用面も気になりますが、同じように注意しなければならないのは高齢者福祉施設での新型コロナの感染拡大をどう防ぐか、ということです。

施設側だけではなく、私たちにもできることがあるかもしれません。

結城先生は下の図のように、ケース別に現状の問題点や気を付けたいことについて話しています。

今後の参考にしたいですね。

コロナ禍での介護で気を付けたいこと

《デイサービスなどを利用している場合》

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介護サービスの「利用控え」には要注意
新型コロナへの感染に注意するあまり、普段なら週に3回程度利用しているデイサービスを週1回に減らすといった「利用控え」が起こりがちです。しかし「『利用控え』を原因とする生活リズムの乱れ、身体機能の低下がいま問題視され始めています」と、結城先生。マスク着用などは徹底しつつ、なるべくいままで同様に利用していきたいですね。

《親子が遠方に住んでいて会えない場合》

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日々の電話以外に近隣住民との連携を
地方に住む親の介護で帰郷することが難しい状況です。感染を恐れて非正規雇用の職員の離職が続き、施設側も人手不足のため通常通りのサービス提供が困難で、「いまいちばん大きな問題です。まずは自分でできることは自分でするように話し、後はこまめな電話や、近隣住民に見守りを頼み安否を確認する、といった対策しかできない状況です」(結城先生)。具体的な支援策が待たれます。

《老人ホームなどに入居している場合》

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こまめに電話やビデオ通話で連絡を
新型コロナ対策のための面会禁止で、入所している親が子どもたちに会えず気落ちしてしまっているかもしれません。そんなときは電話や、スマホ・パソコンでのビデオ通話などで連絡を取るのがおすすめです。「介護施設の職員は忙しいため、なかなか向こうから提案はしてもらいにくい。こちらから積極的にお願いすると、対応してもらえますよ」(結城先生)

取材・文/仁井慎治 イラスト/やまだやすこ

 

<教えてくれた人>
淑徳大学 総合福祉学部 教授
結城康博(ゆうき・やすひろ)先生
1969年生まれ、北海道出身。法政大学大学院政治学研究科博士後期課程修了。94~2007年、地方自治体でケアマネジャーなどとして介護部署等での勤務ののち、現職。著書に『介護』(岩波新書)など。

この記事は『毎日が発見』2020年10月号に掲載の情報です。

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