雑誌『毎日が発見』で好評連載中の、医師・作家の鎌田實さん「もっともっとおもしろく生きようよ」。今回は、新型コロナウイルスの影響による自粛生活下において、特に「認知症」のリスクを低くするための「三つの提案」を教えてくださいました。
コロナの長期戦をどう乗り越えるか
新型コロナ感染症との関係は三つの段階があります。
一つ目は第一波を抑えこもうとウイルスと闘っている状態の「オン・コロナ」。
二つ目は、第一波が終わった後の「ウィズ・コロナ」。
徐々に社会経済活動の抑制を解きながら、やがて来る第二波を極力小さくすることが課題です。
今は、この状態だと思います。
そして、三つ目は、PCR検査も拡充し、ワクチンや治療薬が実用化して、新型コロナをおおむねコントロール下に置くことができた「アフター・コロナ」です。
この段階になるまでには1~3年かかるといわれています。
自粛生活で高まる病気のリスク
新型コロナとの闘いが長期戦になることは間違いないでしょう。
この時期、感染しない、感染させないことに注意することに加えて、次のような八つの病気に気を付けることが大切です。
その一つは、運動不足や食べすぎ、飲みすぎによる①肥満、②糖尿病、③脂肪肝などです。
また、不安やストレスが続くことで、④高血圧や⑤アルコール依存症、⑥うつ病も心配になります。
新型コロナが何とか収束したとしても、こうした病気になる人が増加するのではないかとぼくは危惧しています。
特に、中高年では、⑦フレイル(虚弱)と⑧認知症に注意しなければなりません。
フレイルは要介護状態につながりますし、認知症は要介護の原因の第一位です。
自粛生活は、人とのかかわりが減り、行動範囲が狭くなるため、認知機能の低下を招きやすくなります。
予備軍の人が認知症になったり、認知症の人が症状が進行したりします。
中等度の認知症になると、1カ月の介護費用が約16万円、5年間では約1000万円かかるというデータがあります。
経済的にも、大きな負担となります。
コグニサイズで、頭と体を同時に動かす
認知症を予防するために、三つの提案をしたいと思います。
第一の提案は、頭と体を同時に動かすコグニサイズです。
認知を意味する「コグニション」と「エクササイズ」を合わせた造語で、国立長寿医療研究センターが認知症予防のために開発しました。
認知症予備軍がコグニサイズによって40%改善したというデータがあります。
ももを高く上げて足踏みをしながら、100から7を引く引き算をしていきます。
楽々できるという人は、1000から13を引く引き算にチャレンジ。
ぼくは計算が得意なほうですがテンポよく答えられないときがあります。
でも、答えにつまっても、間違えてもいいのです。
スラスラ答えられないくらいのほうが、集中力が高まり、脳に刺激を与えられるのです。
みんなでするには、マルチステップ・コグニサイズがおすすめ。
マルチステップは、両脚をそろえて立ち、
①右足を前に出して元に戻す
②左足を前に出して元に戻す
③右足を右に出して元に戻す
④左足を左に出して元に戻す
――を繰り返しながら、1、2、3、4と数を数えます。
慣れてきたら、3の倍数のときだけ声を出さずに、手をたたきます。
スカイプなどでビデオ通話をしながら、離れて暮らす家族や友人と一緒にやると盛り上がります。
お孫さんなど小さな子どもはあっという間にコツをつかんでしまいます。
ぼくは初めマゴマゴしましたが、間違えても大笑いしました。
コグニサイズは認知症予防が主な目的ですが、うつ病や不眠にもよい効果があります。
リズミカルな運動をすると分泌されるセロトニンは、うつ病にならないために大切な神経伝達物質です。
また、セロトニンは夜、睡眠誘導物質のメラトニンになり、いい睡眠をもたらしてくれるので、不眠も解消してくれるでしょう。
鎌田が最近こだわっている「ランジ」。足を前後に大きく開き、ひざの曲げ伸ばしを行う体操です。毎日20回やっている。
楽しいこと、好きなことにこだわろう
認知症の一般的な症状にアパシーがあります。
何事にも無関心で無気力な状態のことをいいます。
コロナのなかで、意欲が低下しないように注意してください。
脳は楽しいこと、好きなことをすると活性化するので、何か夢中になってできる趣味を見つけるとよいでしょう。
これが第二の提案です。
SNS(※1)を使って仲間と一緒に趣味を楽しんだり、一人で古典や数学、世界史などを学び直したりするのも方法。
ぼくはこのところ、古い名作映画を見直していました。
『市民ケーン』『鉄道員』など、半世紀以上前にこんないい映画がつくられていたことが信じられない思いです。
(※1)インターネットのサービス。ソーシャル・ネットワーキング・サービスのことです。
必要なのは、ソーシャル・コネクティング
第三の提案は社会とつながることを意識することです。
感染を防ぐために、離れることばかりが強調されています。
「ソーシャル・ディスタンス」といわれていますが、実際に大切なのは「フィジカル・ディスタンス」(物理的な距離)です。
そして、社会とはつながること、「ソーシャル・コネクティング」が大切なのです。
大げさなことでなくてもいいのです。
まずは身近な人のことを気に掛けることから始めましょう。
用事はないけれど、友だちに電話をしたり、手紙を書いたりするのもいいと思います。
ハーバードメディカルスクールの論文では、社会参加の少ない高齢者はアミロイドβ(※2)の蓄積量が多く認知機能も低下していたと発表しています。
ぼくたちは、いま、不自由なことが多いウィズ・コロナを生きていますが、将来の要介護のリスクを低くするためにも、以上の三つの提案を実行することをおすすめします。
コロナ後の世界は、社会のルールや価値観が変わっていく可能性がありますが、ぼくは悲観してはいません。
これからの人生、何をして楽しみたいか、どうすればおもしろく生きられるか、新しい自分をつくっていくチャンスだと思っています。
(※2)アルツハイマー型認知症患者の脳内に沈着するたんぱく質。