今こそガンディーの経済学を! コロナの急拡大を受け森永卓郎さんが提案する「新たなライフスタイル」

新型コロナウイルスの急拡大を受け、経済アナリストの森永卓郎さんは「グローバル資本主義を捨てて、ガンディーの経済学を取り入れた経済構造やライフスタイルを実現すべき」と言います。一体どういうことなのでしょうか...⁉ 定期誌『毎日が発見』の森永さんの新連載「人生を楽しむ経済学」からお届けします。

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コロナウイルスはなぜ急拡大したのか

新型コロナウイルスの感染が急速に広がり、経済的にも、国民生活の面でも、世界中がとても厳しい状況に置かれています。

ただ、私は、こうした大きな災難が生まれたのは、行き過ぎたグローバル資本主義への警告ではないかと考えています。

まず、新型コロナウイルスの感染スピードが、今回とても速かったのは、グローバルな人の往来が格段に増えたからです。

かつてのように人々の仕事や生活の大部分が、地域内で完結するような時代であれば、新型コロナウイルス感染症は、武漢の「風土病」という扱いで終わっていたかもしれません。

第二は、グローバル資本主義が、大都市一極集中を促進するということです。

世界には無数の都市がありますが、国際金融センターと呼ばれる都市は、ニューヨークやロンドン、上海、東京など両手で数えられるほどです。

そして、東京圏への転入超過は24年連続で起きています。

新型コロナウイルス感染の大部分は、大都市で発生しています。

あまりに人口を集中させ過ぎたことが被害を大きくしているのです。

第三は、グローバル調達の問題です。

グローバル資本主義での大原則は、世界でいちばんコストの安いところから、大量発注で仕入れをするということです。

ところが、その結果、サプライチェーン(製品の原料の調達から製造、販売、消費までの一連の流れのこと)問題というのが発生しました。

例えば、新型コロナウイルスの影響で中国での生産が滞ると、中国製の部品を使用している日本のメーカーが、製造を継続できなくなってしまうのです。

実際、日産自動車は、中国製部品の調達ができないことで、主力の九州工場を2日間操業停止にしました。

タカラトミーは、中国生産の滞りなどを理由に2020年3月期の連結業績予想を、利益半減へと下方修正しました。

そもそも、慢性的なマスク不足を招いたのも、マスク製造の大部分を中国に依存していたからなのです。

第四の問題は、金融所得の喪失です。

いまや世界の富裕層で、働いている人はほとんどいません。

値上がりが期待できるビジネスや金融商品に投資して、カネにカネを稼がせているのです。

ところが、今回の新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、世界の株価が大暴落を起こしました。

暴落は、株にとどまらず、原油、仮想通貨など、あらゆる金融商品に広がっています。

来年には都心の商業地も暴落に見舞われるでしょう。

富裕層の多くが、借金を利用して投資をしているので、彼らの多くが今後、破産者になっていきます。

投資した金融商品は値下がりしても、借金は値下がりしないからです。

これまで、若者たちの憧れの的であった富裕層のメッキが、ボロボロと、はげていくのです。

人類に襲いかかる新しいウイルスは、今回の新型コロナウイルスで終わりません。

また新しいウイルスが、次々に襲ってくるでしょう。

このままでいったら、そのたびに、世界に感染が広がって、経済や暮らしが深刻な影響を受けることになります。

貧困をなくせる経済理論がある

それでは、今後私たちは、どうしたらよいのでしょうか。

私は、グローバル資本主義を捨てて、ガンディーの経済学を取り入れた経済構造やライフスタイルを実現すべきだと思っています。

インド建国の父、マハトマ・ガンディーは、地方への工場誘致や自由貿易に反対しました。

私は、経済学が分かっていないからそんなことを言うのだと思っていました。

しかし、それは誤りだったのです。

ガンディーは、世界中の人がどうしたら幸せになれるのかを考え抜いた結果、「隣人の原理」にたどり着きました。

皆が近くの人を助ける行動に出るのです。

近くの人が作った食品を食べ、近くの人が作った服を着る。

そして近くの大工さんが建てた家に住む。

そうした小規模分散型の経済を世界中に広げていけば、貧困で苦しむ人はいなくなるだろうと、ガンディーは考えたのです。

地産地消というのに近い考え方ですが、これはグローバル資本主義への明確なアンチテーゼなのです。

そんなことができるのかと思われるかもしれませんが、こうした小規模分散型の経済というのは、かつての日本の農山漁村では、ごく普通に行われてきたことなので、実現可能性は十分です。

実際、いま地方への移住を模索する若者が急速に増えています。

都会で精根使い果たすまで働いても、幸福が得られないことに気付いたからです。

それよりも、おいしい空気と水と食料に恵まれ、人々も優しい農山漁村で暮らしたいと考えているのです。

しかし、移住を実現できた人の数は、さほど増えていません。

それは、生きていくためにどうしても必要な現金を稼ぐ手段が、農山漁村ではなかなか得られないからです。

ただ、高齢層の場合は、事情が異なります。

年金というベースカーゴ(基礎となる貨物、転じて基盤となる収入の意味)を手にしているのですから、日本中どこに居住地を求めても自由なのです。

実は私自身は、農山漁村に住むほどの根性がないので、都心から50kmほど離れたトカイナカで暮らしています。

それでも、都会と比べたら、はるかに豊かな自然と優しい人たちに囲まれて暮らすことができています。

今回の災難をきっかけに、もう一度将来のライフスタイルを考え直してみては、いかがでしょうか。

 

森永卓郎(もりなが・たくろう)
1957年生まれ。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、経済企画庁などを経て現職。50年間集めてきたコレクションを展示するB宝館が話題。近著(共著)に、『親子ゼニ問答』(角川新書)がある。

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『親子ゼニ問答 (角川新書)』

(森永 卓郎 森永 康平/KADOKAWA)

「老後2000万円不足」が話題となっていますが、「金融教育」の必要性を訴える声が高まっています。ですが、日本人はいまだに「お金との正しい付き合い方」を知らない人が多いようです。経済アナリストの森永親子が「生きるためのお金の知恵」を伝授してくれる、話題の一冊です。

この記事は『毎日が発見』2020年5月号に掲載の情報です。

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