相続、介護、オレオレ詐欺...。年を重ねるにつれ、多くのトラブルに巻き込まれるリスクがありますよね。そこで、住田裕子弁護士の著書『シニア六法』(KADOKAWA)より、トラブルや犯罪に巻き込まれないために「シニア世代が知っておくべき法律」をご紹介。私たちの親を守るため、そして私たちの将来のための知識として、ぜひご一読ください。
万引き
平成20年から平成29年までの万引きによる検挙人員のうち、65歳以上の高齢者の占める割合は年々高くなっています。
平成29年には約2万7千人に上り、全体の約4割を高齢者が占めています(法務省「平成30年版 犯罪白書」)。
【この条文】
刑法 第235条(窃盗罪)
他人の財物を盗んだ者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役、または50万円以下の罰金に処する。
万引きは、法律上「窃盗罪」ですが、被害品が返還され、被害金額が少額なら微罪であるとして、不起訴になる場合が多いです。
しかし繰り返していると罰金、次いで懲役刑求刑など、次第に重い刑罰が科されていきます。
常習的に繰り返すと、「常習累犯窃盗罪」として、「窃盗罪」よりも重い刑罰が科されます。
高齢者の万引きには、共通する特徴があります。
・ 再犯率が高い
・ 犯行が行われる場所はいつも行っているスーパーやコンビニなどが多い
・ 万引きした商品は食料品や酒類で自己で消費するものが多い
・ 金額が比較的少額である
・ 「捕まっても代金を払えば許してもらえる」と犯罪に対する認識が甘い
・ 計画性がなく衝動的に敢行する
・ 手口が簡単で、幼稚といえる
なぜ、万引きしてしまうのか?
高齢期になって万引きをする要因として、次の3点が挙げられます。
経済的要因
65歳以上の高齢万引き犯の約8割が無職です。
万引きの理由として「お金を支払いたくない」「生活困窮」が、それぞれ回答の約3割を占めています(万引きに関する有識者研究会『高齢者による万引きに関する報告書 ―高齢者の万引きの実態と要因を探る―』平成29年3月)。
一方、高齢万引き犯のうち生活保護受給者は2割程度であり、動機として言っている「生活困窮」状態にある者は、実態としては少ないと推察されます。
本人が主観的に「自らの生活が苦しい」「他者と比べて生活レベルが低い」と感じていると考えてよいでしょう。
身体的要因
高齢万引き犯は、同年代と比べ、体力の衰えを実感している割合や認知機能の低下が疑われる割合が多いようです。
犯罪を抑制する能力が衰え、「目の前の食べ物が欲しい」というごくごく生物的な本能を抑えきれずに犯行に走ってしまうのです。
周囲との関係性
65歳以上の高齢万引き犯のうち、「一人暮らし」は56.4%、交友関係が「ない」が46.5%となっています(同前)。
社会との関わりの欠如が孤独や不満、ストレス等につながり、それらを晴らすために問題行動へと発展しているようです。
【事例】
高齢の配偶者・同居人が万引きで捕まった。
万引きした人が認知症で責任を問えない場合に、家族等が保督責任(被害弁償)を負うかどうかを考えてみましょう。
最高裁判例を参照すると、監督するうえでの落ち度(過失)があったか、監督が可能・容易であったかどうかがポイントです。
今まで万引きをしたことがない人の場合、「まさか、万引きをするなんて予想もしていなかった」、すなわち「予見可能性がない」ということで、保督義務者としての責任(被害弁償)を負わない......ということはあり得ます。
しかし一般的には、認知症が進行すると、外出した際にはなんらかのトラブルを引き起こすかもしれない、と認識しておくことが前提となるでしょう。
その場合は、かなり広い監督義務が発生するといえます。
もっとも、法的責任となるかどうかはともかくとして、まずは本人の資産から、あるいは家族が代わって弁償することは、社会的・道義的に当然と考えられます。
特に、刑事事件となって警察に呼び出されたら、被害弁償したうえで、家族は今後の監督を誓うとの誓約書を提出して、できれば不起訴など穏便な処分となるように対応する必要があるでしょう。
ほかにも書籍では、認知症や老後資金、介護や熟年離婚など、シニアをめぐるさまざまなトラブルが、6つの章でわかりやすく解説されていますので、興味がある方はチェックしてみてください。