相続、介護、オレオレ詐欺...。年を重ねるにつれ、多くのトラブルに巻き込まれるリスクがありますよね。そこで、住田裕子弁護士の著書『シニア六法』(KADOKAWA)より、トラブルや犯罪に巻き込まれないために「シニア世代が知っておくべき法律」をご紹介。私たちの親を守るため、そして私たちの将来のための知識として、ぜひご一読ください。
【事例】
上の階に引越してきた子どもたちの飛び跳ねる音。深夜まで鳴り響く音響機器の音楽。へたな歌声。ドアの開閉などの生活音。連日連夜度を越した騒音にノイローゼ気味に。不眠も続いて、病院通いになってしまいました。この音源の住人に損害賠償を請求することはできるのでしょうか?
【ワンポイント】
社会的に許されないほどひどい(「受忍限度を超える」という)騒音があり、その騒音によって被害が生じ、かつ、それらの証明ができれば、損害賠償請求を行うことができるでしょう。
ご近所トラブルの中で最も多い騒音問題。
さまざまなトラブルがあり、殺人事件に至った深刻なものもあります。
法的にはどのような請求が可能でしょうか?
まずは相談・交渉
直接に苦情を伝えて聞き入れてもらえれば、それに越したことはありません。
しかし、実際にはそれだけでは解決しない場合が多いでしょう。
かえって人間関係が悪くなり、以前よりも嫌がらせ的に音が大きくなったり、険悪な感情が増幅していったりすることもあります。
したがって、マンションなどの共同住宅であれば管理会社や管理組合、貸室であれば大家など中立的な第三者を通して、騒音を出している住人に改善を促すのが穏当でしょう。
警察に相談するのであれば、地域の安全を担当する防犯課などの「警察相談専用電話#9110」が、刑事事件性のない近隣トラブルの相談を受け付けています。
相談員が対応方法についてアドバイスしてくれるだけではなく、悪質な近隣トラブルの場合には、警察から騒音を出している隣人に指導や警告を行ってくれることもあります。
理解を求めるには
どの程度の騒音か、録音などをして聞いてもらうことが理解を得る手段となるでしょう。
市区町村の役所には、公害課、苦情相談窓口などがあり、そこで騒音測定器を貸し出していることがあります。
それで測定してみるのも一つの方法です。
その結果、地域の騒音基準の条例を参考にし、その音量が条例の基準を超過していれば、より説得力が増すでしょう。
特に、裁判にするとなると科学的な証拠は重要です。
損害賠償請求が認められるには?
騒音によって、眠れないなどの精神的苦痛が大きく、健康被害が生じて治療を必要としたり、引越しを余儀なくされたりした場合に、治療費、引越し費用などの損害賠償、さらには慰謝料などの請求をすることが考えられます。
法的手段に訴える場合には、その騒音によって被害が生じていることとそれを証明する証拠が必要です。
健康被害の症状(うつ状態、心因反応など)については、確定診断と、騒音との因果関係を証明できるかがポイントとなります。
また、騒音の大きさについて、科学的根拠による機器を使用した証拠を準備することも必要です。
これには専門家の力を借りることも一つの手段でしょう。
その騒音は、受忍限度を超える程度か?
違法な程度にひどい騒音かどうかについては、社会生活を送るうえで我慢すべきと認められる限度を超えるものであること、つまり「受忍限度を超える」ものであることという判例の考え方があります。
騒音の感じ方は人それぞれであり、生活騒音についてはお互いさまのところがあります。
裁判では、「騒音そのものの音量および性質」と「騒音の発生者が被害防止や軽減のために行った措置」などを総合的に考慮して判断されます。
騒音レベルが大きくても、その音の発生源となっている行為が日常生活を送るうえでやむを得ないものだったり、上の階の住人が被害を最小限にすべく防音措置を講じているような場合には、受忍限度の範囲内と判断されやすくなります。
反対に、下の階の住人に対して不誠実な対応をしていたり、上の騒音主が故意に嫌がらせ的に騒音を発生させたりしているような場合には、受忍限度を超えるものと判断されることになるでしょう。
子どもが走り回る騒音が問題になった裁判では、子どもが走り回っているのは日中だけであり、騒音もそれほど異常とはいえないとして損害賠償請求を認めなかった裁判もあれば、相手方の不誠実な態度を考慮して受忍限度を超えていると判断した裁判もあります。
これらの騒音裁判で認められる損害賠償額は、平穏で快適な日常生活を尊重する時代の流れもあり、少しずつ高くなっています。
単なる精神的苦痛ではなく、それが高じて病院による治療が必要なレベルになれば、慰謝料額も少し上乗せされるでしょう。
【その他の条文】
民法 第709条(不法行為による損害賠償)
故意、または過失によって他人の権利、または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
第710条(財産以外の損害の賠償)〈抜粋〉
前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
イラスト/須山奈津希
ほかにも書籍では、認知症や老後資金、介護や熟年離婚など、シニアをめぐるさまざまなトラブルが、6つの章でわかりやすく解説されていますので、興味がある方はチェックしてみてください。