新型コロナウイルスに便乗するものも出てくるなど、進化し続ける「詐欺」の手口。そんな詐欺や悪徳商法に詳しいルポライター・多田文明さんの著書『だまされた!「だましのプロ」の心理戦術を見抜く本』(方丈社)から、現代の詐欺から身を守る方法を抜粋してお届けします。
勧誘・詐欺の電話を最後まで聞いてしまった時の対処法
最後まで(詐欺師や強引な勧誘の)話を聞いてしまうと、これが一番厄介だ。
私も潜入先で、だましの手の内をルポするためにすべての話を聞く必要がある。
そのため、ひととおりの勧誘話を聞いてから断るわけだが、これがなかなかに難しい。
というのも、それまで素直に話を聞いていたのに、急に「契約はしません」と断る姿勢に出るのだから。
「さっきまでは、あれほどうなずきながら話を聞いてくれていたではないですか!」
「話がよかったら契約をしてくれると、あなたは最初に言っていた。あれはウソなのか!」
契約しない私に対して、揚げ足をとって「ウソつき」呼ばわりしてくることもある。
そうした中で、「契約しません」と言うのは、至難の業なのだ。
私でさえそうなのだから、普段こうした勧誘に慣れていない人は断り文句がなくなり、契約書にハンコを押してしまう気持ちになるに違いない。
そこで、断り方のコツとして、すぐに断るのではなく、「あまり関心がないです」「ちょっと難しいですね」とネガティブな言葉を口にしながら、最終的に断り文句を出すことを勧める。話には流れがある。
それなのに、いきなり「やりません」と言うから難しいのだ。
まずネガティブな流れにもっていき、最後にしっかり断るようにする。
相手に「お話はどうでしたか?」と尋ねられたら、「あまり関心がありませんね」と言ってみる。
すると、再び力を入れた説明を始めて同じ質問をしてくるだろうから、この時も「すみません。あまり興味はないです」とネガティブなパンチを、ヒットアンドアウェーの手法で出していくのだ。
あるいは時計をチラチラ見ながら、相手の話に関心がなく、身が入らないような姿勢をみせる。
こうした言葉や行動を見せておくと、勧誘する相手も契約は難しいのではないか、説得するのは無理かもしれないと考える。
そこがミソだ。
こちらが詐欺師にとってのマイナスの行動をとると、彼らの思考力もマイナスになってくる。
時に「お断りします」とはっきり言うが、普段言い慣れていないため気持ちがともなわず、棒読み口調になってしまう人がいる。
すると詐欺業者は心のともなっていない言葉に「まだ話を覆す可能性あり」とみて、さらなる勧誘を続けてくるだろう。
そこで、まずネガティブな表情のボディーブローから入ることを勧める。
相手の話を聞きながら額にシワを寄せる。
口を真一文字に結んで首をひねるなどだ。
それから、断るのだ。
もっと言えば、表情は心の思いから作られる。
「心で嫌だな」と思えば、それが表情に出る。
それが自然に口に出るものだ。
すると、棒読みではない「いりません」という感情のこもった言葉が発せられるだろう。
言葉だけが先行すると、心のこもらないものになってしまうので注意が必要だ。
普段から断り方に慣れていない人は、心のイメージと表情のつくり方の練習をしておくのもいいかもしれない。
ただし、かなりの悪質業者の場合、いくら断ってもとうとうと話を続けることもある。
その時は非常識な人物だと判断して話を打ち切って、さっさと席を立って勧誘場所から去る。
もし家に上がり込んでいて「帰ってください」と言っても居座るならば、「これ以上、家にとどまれば警察に電話をします」と言うのもよいだろう。
不退去は罪になるので、「110番」をして助けを求めるのは、大事なことだ。
それに「断ったのですから、帰ってください。それに二度と家に来ないでくださいね」と言うのもいい。
訪問販売や電話での勧誘において、一度断った相手に再び勧誘をしてはいけないという「再勧誘の禁止」が定められているからである。
「法律で決まっていますよね」とダメを押すのも効果的。
これを話すメリットとして、業者に若干でも法的な知識をもっていると思わせることで、マイナス思考に陥らせることができる。
「こうしたことを言える人は、普段から被害情報を仕入れている人でだましづらい人だ。もしかすると、本当にすぐに警察を呼ぶかもしれないぞ。これ以上関わるのは危険だ。さっさと失礼しよう」
悪い連中は悪事に知恵を回すのも得意だが、まずい事態になるかもしれないという逆の知恵を回すのも得意なのだ。
それをさせることで、電話勧誘や訪問をやめさせることもできる。
【第1回から読む】今こそ基本から知っておきたい「オレオレ詐欺」を察知するチカラ
詐欺をする側の手口や心理、現状、そして「電話の切り方」など身を守る術が全7章にわたって網羅