怪しい勧誘をきっぱり断ったら「名誉棄損」って、なんで!?詐欺師に「絶対言ってはいけない言葉」

新型コロナウイルスに便乗するものも出てくるなど、進化し続ける「詐欺」の手口。そんな詐欺や悪徳商法に詳しいルポライター・多田文明さんの著書『だまされた!「だましのプロ」の心理戦術を見抜く本』(方丈社)から、現代の詐欺から身を守る方法を抜粋してお届けします。

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最後に弁護士が登場する「医療法人事業債」勧誘詐欺のカラクリ

日本人は断り方があまりうまくないと言われている。

悪質業者を撃退するために「いりません」「契約しません」と、はっきりと断りましょうと言われるが、勧誘の現場でそれを実践することの難しさを感じている人も多いのではないだろうか。

しっかりと相手に「NO」を突きつけることは大事なことである。

だが、「はっきりと、断りましょう」というだけの助言も不親切だと思うことがある。

というのも、どのタイミングでどのような言葉で断ればいいのか、何も説明もしていないからだ。

私も常々、潜入した勧誘現場で相手の勧誘話を断って終わりにするのは本当に難しいと思っている。

断るということを身を守るための武器にしようとすれば、「どこのタイミング」で「どのような言葉」で断るべきなのか、もっとしっかりとしたアドバイスが必要なはずなのだ。

詐欺は点ではなく線で考えると述べたが、これは断り方にも当てはまることなのだ。

あやしい話が来たら「毅然とした言葉で断って、撃退すればよい」と思っている人も多いかもしれない。

だが、ものを言い過ぎて詐欺師に知恵を回されてしまい、大きな落とし穴にはまってしまうこともある。

「債権を高値で買い取りたいので、ぜひとも購入しておいてほしい」

高齢の女性宅に、医療法人の事業債が購入できるというパンフレットが届いた。

その後、買い取りたいという業者から電話がかかってきた。

女性はニュースなどで見聞きしていた、買い手を装って電話をかけて金をだまし取る詐欺話に似ていることから、はっきりと断ろうと思った。

「これは、詐欺でしょう!」と一喝して、電話を切った。

これで女性は詐欺業者を撃退できたと考えたに違いない。

しかし、この言葉があだとなった。

その後、弁護士をかたった人物から電話がかかってくる。

「当社は、法律を守って活動しているまっとうな会社です。それにもかかわらず、あなたは当社の社員を詐欺呼ばわりしましたね。これは名誉棄損という罪にあたります。あなたを訴えます」

裁判沙汰にあわてた女性は、弁護士を装った男からの「事業債を買って売ってくれれば、この件を穏便にすませる」という提案に応じてしまい、数百万円をだまし取られることになった。

この女性の断り方のどこがよくなかったのだろうか?

うまく断るには、どのタイミングで断り文句を口にするかが大事になる。

一番いいのは、相手の話をほとんど聞かずに「いりません」と断ることだ。

その点については、私は女性のとった対応自体は悪くないと思っている。

先日も家に、インターフォンを鳴らして扉をどんどん叩く人がいる。

あまりにもしつこいので「どなたさまですか?」と尋ねると「ガスの件です」と言うので扉をあけてみた。

作業服の男性が立っている。

「実は、ガスの自由化の件でお話に来ました。電気代など......」

そう言った時点で私は電力自由化に絡む営業とわかったので、「自由化のお話はけっこうです」と言って扉を閉めた。

扉越しに「お話だけでも......」と言うも「いりませんから」と言い、あとは無視した。

すると、勧誘者は別な住人のところに向かっていった。

悪質業者は最初の声かけで見込みのある客かどうかを判断するので、門前払いすれば「見込みなしの客」と思って、あっさりと引き下がることが多い。

それゆえに、門前払いは撃退にとても効果的なのである。

このような観点から、勧誘電話を受けて間髪入れず高齢女性が断ったことは正しいのだ。

ただし、女性はどんな断り文句を話すかで失敗した。

「これは、詐欺でしょう」という言葉は撃退にはよさそうに見えて、実はきわめて危険な言葉なのだ。

もし私が先の訪問業者に「あなたのような、しつこい、迷惑な勧誘をする人は帰ってください」などと言えば、相手は「しつこい」「迷惑な」という言葉にカチンときて、扉を閉めても何度もドアをたたき続け、怒鳴りだすかもしれない。

実際に大声を出して近所迷惑な行為を繰り返して、扉を開けさせるという手もある。

ゆえに、相手が悪質業者や詐欺師であっても、人格を踏みつけるような言葉を吐いてはいけない。

それに対して頭にきた相手は、どんな悪知恵を回してくるかわからないからだ。

「しっかりと断りなさい」ということは大事だけれども、やり過ぎると相手の心に火をつけて、攻撃的にさせてしまうことだってありえるのだ。

もし断るならば、シンプルな言葉が一番だ。

忙しい様子で「いりません」「けっこうですので、お帰りください」と追い返す。

訪問販売員みんなにしているような手慣れた感じで断るのがよい。

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怪しい勧誘をきっぱり断ったら「名誉棄損」って、なんで!?詐欺師に「絶対言ってはいけない言葉」 114-H1-damasareta.jpg詐欺をする側の手口や心理、現状、そして「電話の切り方」など身を守る術が全7章にわたって網羅

 

多田文明(ただ・ふみあき)
1965年北海道生まれ。ルポライター。「キャッチセールス評論家」「悪徳商法評論家」「悪質商法コラムニスト」「潜入ルポライター」などとも称される。主な著書は「キャッチセールス潜入ルポ~ついていったらこうなった」(彩図社)、「電話にでたらこうなった!」(ミリオン出版)など。

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『だまされた!「だましのプロ」の心理戦術を見抜く本』

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※この記事は『だまされた!「だましのプロ」の心理戦術を見抜く本』(多田文明/方丈社)からの抜粋です。

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