毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「『おかえりモネ』で描かれる東日本大震災」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
【前回】【おかえりモネ】なんて素敵なのだろう! 鮮やかに描かれた百音を支える人々の「大人力」/7週目
【最初から読む】『おかえりモネ』は異例のスタート? 朝ドラの"重要な2週間"に思うこと/おかえりモネ1~2週目
清原果耶主演のNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)『おかえりモネ』第8週のサブタイトルは「それでも海は」。
今週は、亮(永瀬廉)と父・新次(浅野忠信)の過去と現在がメインで描かれた。
登場人物が多い本作の中でも、おそらく震災の傷を最も深く負っているのが、この2人だ。
3度目の気象予報士試験の勉強をするため、年末に帰省した百音(清原)。
しかし、母・亜哉子(鈴木京香)がある男性と会っているという噂を耳にし、未知(蒔田彩珠)と共に亜哉子のあとをつけるのだが......。
亜哉子が会っていたのは新治だった。
実は亜哉子は、新次をアルコール依存症から立ち直らせるために病院通いさせていた。
「なぜ亜哉子が?」と思うが、そもそも耕治(内野聖陽)と新次、その妻・美波(坂井真紀)は幼なじみで、かつては家族ぐるみで仲良しだったのだ。
そして、震災を機に、耕治と新次は疎遠になってしまった。
疎遠の原因は新次が買った漁船の借金返済にあったのだが、亜哉子は夫の代わりとして、そして亡くなった美波の思いも代弁するかのように新次を見守り続けていたのである。
しかし、長い時間をかけて積み重ねてきた努力は、瞬時に崩れ去る。
新次が行方不明になり、かつて自宅があった場所で酔いつぶれているところを発見されて、永浦家に運び込まれるのだ。
そこで落ち着いてきた様子の新次は初めて心情を吐露する。
「5年間ってそんなに長いですか」
実は亮がメカジキ50本を釣り上げたという連絡を受け、嬉しくなり、酒を飲むが、それによって「嬉しさを話せる相手がいない」ことを痛感してしまったのだった。
「俺は立ち直らねえ! 絶対立ち直らねえよ!」
立ち直ることは、新次にとって美波という存在を忘れる、消すことと同じなのだろう。
その一方で、亮は必死で「俺たちの世代が前を向かないと」と百音たちに言う。
「被災者」という言葉で決してひとくくりにできない被災した人々のそれぞれの状況の違い、そして同じ境遇に置かれても向き合い方や、前を向くために必要な時間は異なるのだということを実感させる繊細な描写だ。
これは震災から10年経ち、にもかかわらず復興がなかなか進まない現状があっての今だから描ける目線でもある。
これまで朝ドラでは戦争からの復興が終盤で描かれるケースが多かったが、この生々しくシビアな現実が描かれるのがまだ第8週という衝撃。
安達奈緒子脚本の凄みが際立ってきた週でもあった。
【まとめ読み】『田幸和歌子さんの「朝ドラコラム」』記事リスト
文/田幸和歌子