毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「『おかえりモネ』でヒロイン・百音を支える人々の『大人力』」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
【前回】「やってもできない」と開き直り! 人生100年時代、よちよち歩きのヒロイン像/6週目
【最初から読む】『おかえりモネ』は異例のスタート? 朝ドラの"重要な2週間"に思うこと/おかえりモネ1~2週目
清原果耶主演のNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)『おかえりモネ』第7週のサブタイトルは「サヤカさんの木」。
今週鮮やかに描かれたのは、「大人力」。
震災時に自分が何もできなかったという思いから、人の役に立ちたいと考え、気象予報士試験を受けることを決意した百音(清原)。
しかし、中学生理科も身についていないところからのスタートで、試験には当然不合格となる。
そこで、再チャレンジすべく、菅沼(坂口健太郎)に再び勉強を見てもらう日々が始まるが、その一方で森林組合の仕事は充実していく。
おまけに、サヤカ(夏木マリ)が作業中に骨折してしまったことから、「自分にできること」として、気象予報士試験の勉強を中断して自動車免許を取得する百音。
百音は朝ドラでは多い「しっかり者の長女」とは真逆のキャラだ。
あたたかな家庭でぬくぬく育ち、自分の好きな音楽もトランペット奏者だった子煩悩な父(内野聖陽)にサポートしてもらい、これまではずっと与えてもらう・守ってもらうばかりの人生だった。
だからこそ、目の前で困っている人のために何かできることが心底嬉しいのだろう。
それでいて、朝岡(西島秀俊)が後輩の気象予報士を連れて森林組合にやってきて、その姿を見るうちに東京の気象情報会社に興味を持ち始める。
正直、中学理科を先日までやっていた百音には、あまりに遠い話に思えるが、朝岡は百音にこんな言葉を託す。
「何もできなかったと思う人は、次はきっと何かできるようになりたいと強く思うでしょう。その思いが、私たちを動かすエンジンです」
上から正論を投げかけるのではなく、まだ種火ですらないくらいの限りなく低い可能性の淡い思いに光を灯す朝岡は、なんて素敵な大人なのだろう。
そして、そんな百音の思いに気づき、送り出すことを決めるサヤカの大人力。
サブタイトルの「サヤカの木」とは、樹齢300年のヒバの木を切ることであり、サヤカが見守り、育ててきた百音との別れでもあるのだろう。
さらに、百音が自分でも理解できていない気持ちを、上手に整理し、進むべき道(スクールに通って勉強すること)を指示してくれた菅沼もまた、大人だ。
様々な大人力に支えられながら、あっという間に勉強の「師」であった菅沼を超えたらしき描写で今週は終了。
樹齢300年のヒバの木や自然に比べて、人間の成長の速いこと。
異なる時間軸が提示されるような面白さもある展開だった。
【まとめ読み】『田幸和歌子さんの「朝ドラコラム」』記事リスト
文/田幸和歌子