平日の朝にドキドキやワクワク、そしてホロリなど様々な感情を伝えてくれるNHK連続テレビ小説。楽しみ方や豆知識をエンタメライターの田幸和歌子さんに語っていただくコラムがスタートしました! 今週は「スタート2週間の『おかえりモネ』の印象」についてズバリお話しいただきました。あなたはどのように観ましたか?
清原果耶主演のNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)『おかえりモネ』が5月17日にスタートした。
清原果耶主演×安達奈緒子脚本というNHKドラマ10『透明なゆりかご』のタッグに加え、内野聖陽×西島秀俊×安達奈緒子脚本のドラマ24『きのう何食べた?』(テレビ東京)のトリオ、朝ドラ『カーネーション』でヒロインの晩年を演じた夏木マリ、『まんぷく』の白馬に乗った歯医者・浜野謙太、『あまちゃん』の漁協組合長のでんでんなどなど、朝ドラファン&ドラマ好きが反応する要素てんこ盛りで、大いに期待されていた本作。
ヒロインが海を背景に空を見上げるキービジュアルのキラキラ感、オープニング映像の疾走感、緑や光、風、自転車で走るヒロインの姿など、一見、実に爽やかな朝ドラの始まりにも思えた。
しかし、放送開始早々、多くの視聴者が感じたのは、「あれ? 意外と暗い......」「思っていた感じと違う」という印象ではないか。
物語は2014年春、気仙沼の離島で育ったヒロイン・永浦百音(清原)が、高校卒業を機に、登米の大山主・サヤカ(夏木)の家に下宿して、森林組合の見習い職員として働き始めるところから始まる。
ところが、自然豊かな映像の美しさの一方で、物語には終始どこか不穏な空気が漂っている。
実は百音は大学受験にことごとく失敗、好きだった音楽もやめ、やりたいことが見つからず、将来をしっかり見据えている妹にも引け目を感じ、悩んでいた。
ただし、2000年代を中心とした現代モノの朝ドラにありがちな、フワフワした"自分探し"ではない。
漂う空気が非常に重いのだ。
その理由は、2011年の東日本大震災のときに自分が何もできなかった無力感にあることが徐々にわかる。
だからこそ生まれ育った島ではなく山に住むことを選び、「私も誰かの役に立ちたい」と思うのだ。
そんな主人公の"自分探し"を描いた2週間だった。
朝ドラにとって世界観を提示する上で非常に重要な意味を持つため、実は最初の2週間が最も手間をかけて作るという話を、これまで何度か朝ドラ取材の中で聞いたことがある。
だからこそ達者な子役が視聴者を泣かせたり、つかみのある物語で引き付けたりする作品が多いのだが、そうした過去作に比べて『おかえりモネ』の時間の流れはゆったりしている。
気象予報士という仕事に興味を持つという展開が描かれたのも、森林組合のガイドとしての未熟さゆえにピンチに陥り、気象キャスター・朝岡(西島)と若手医師・菅波(坂口健太郎)に救われた2週目の4~5話だ。
朝ドラの視聴方法も多様化しているとはいえ、忙しい朝の15分の間に朝ドラらしい展開は少なかったかもしれない。
だが、喪失感や空虚感、無力感から始まるというあまり前例のない挑戦はこれからどのように作用していくのだろうか。
まずはゆっくり見守りたい。
【次回】最小限のセリフとBGM..."余白"が想像させた百音と取り巻く人々の「喪失感」/おかえりモネ3週目
【まとめ読み】『田幸和歌子さんの「朝ドラコラム」』記事リスト
文/田幸和歌子