【本作を第1回から読む】ファッション誌は、なぜ「新奇」なカタカナ語を生み出すのか。「ガーリーなカジュアル」の進化で考える
『日本語の大疑問2』 (国立国語研究所:編/幻冬舎)第4回【全7回】
ふだんなにげなく使っている日本語も、時代の移り変わりとともに少しずつ変化し、多様化しています。そんな日本語の文法や仕組みに思いを巡らせ「どうしてだろう?」と疑問に思うことはありませんか?『日本語の大疑問2』は、「ことば」のスペシャリスト集団・国立国語研究所所員や研究所に関係の深い専門家たちが、日本語にまつわるさまざまな疑問に答える回答集です。奥が深い日本語の深層に迫ってみませんか?
※本記事は国立国語研究所編集の書籍『日本語の大疑問2』(幻冬舎)から一部抜粋・編集しました。
「やゝ」「人々」の「ゝ」「々」は何と読むのですか
(回答=田中牧郎)
手書きと縦書きの衰退で見かけなくなった「踊り字」
同じ文字を繰り返すときに用いる文字や符号には、「ゝ」「々」のほかにもいくつかあり、まとめて「踊り字」あるいは「繰り返し符号」などと呼びます。パソコンやスマホなどの入力の際、仮名漢字変換の必要から、読み方が話題になる機会が多いようですが、手書きや縦書きの衰退で、使われる場面は急速に狭まってきています。
次のようにいくつかの種類に分かれ、それぞれに独自の呼び名と使い方の習慣があります。①から⑤は、文字というより符号ですから読みはありませんが、⑥は漢字の一種で読みをもっています。
① 一ツ点(ひとつてん) ゝ ゞ ヽ ヾ
仮名一字の繰り返しに用います。「こゝろ」のように平仮名の繰り返しには「ゝ」、「学問ノスヽメ」のように片仮名の場合は「ヽ」が普通です。濁音で繰り返す場合は、「たゞ」「トヾ」のように「ゞ」「ヾ」となります。
② 同(どう)の字点(じてん) 々
「先々」「正々堂々」のように、漢字一字を繰り返す際に用います。現在、横書きでもよく使われます。「ノマ」と呼ぶこともありますが、形を分解した呼び名です。
③ 二(に)の字点(じてん) 〻
「愈〻(いよいよ)」「益〻(ますます)」のように、ある決まった語において、漢字一字の繰り返しに用いられることがありますが、主として縦書きの場合です。繰り返しを意味する「二」をくずした形であるので、この呼び名があります。最近では「愈々」「益々」と書くことも一般的です。
④ くの字点(じてん)
(※文中では★)
「よく★」「知らず★」など、二字以上の繰り返しに用います。濁音にして繰り返す場合は、「くれ★も」(※くの字点に濁点)のように書きます。これも、形に着目した呼び名です。
⑤ ノノ点(ののてん) 〃
図表や箇条書き風の文章のなかで、「上(右)に同じ」という意味で使われます。
(例)春季募集 三月三十一日締め切り
秋季 〃 十月 〃〃
⑥ 仝(どう)
「仝」は、「〃」と同じように使われます。ただ、「仝」は「同」の異体字で、「ドウ」という読みをもち、漢字の一種です。
こうした踊り字の形や使われ方は、手書きによる縦書きのなかで培われてきた習慣によるものです。活字では、新聞の多くは「々」「〃」以外は使わないように定めていますし、最近では横書きや、パソコンやスマホなどによる文章の入力が普及してきたために、様々な踊り字を使い分ける機会は少なくなってきました。しかし、手書きで手紙を書く場合など、踊り字の適切な使用が求められる場面も残っています。