佐藤愛子さん95歳「肉体が無でも魂は永遠。感謝の気持ちを忘れなければ成仏できる」

2017年、日本でいちばん売れた本は佐藤愛子さんの『九十歳。何がめでたい』(小学館)でした。90代の作家が、年間書籍売り上げナンバーワンの大ヒットを生み出したのは、史上初。大きな話題になりました。95歳になってもなお、新刊を刊行する佐藤さんに、年を重ねても輝ける生き方の秘訣をお聞きしました。

佐藤愛子さん95歳「肉体が無でも魂は永遠。感謝の気持ちを忘れなければ成仏できる」 1901p016_01.jpg2016年撮影

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日頃から、感謝の気持ちを大切にしていれば成仏できる

自然や神に感謝する心や、義理、人情、友情、親子の情。そうしたものが失われてきたことで殺伐とした事件が起き、神が怒り、自然災害が増えているのだと佐藤さんは言います。

「災害が起きて、自衛隊やボランティアの人が雨の中で救援活動をしているのに、『助けに来るのが遅い』なんて言う。税金を払っているんだから早くやれ、ってなもんですよ。感謝の気持ちが根こそぎなくなって、自己中心的で物質的な価値ばかりを追い求めているのがいまの日本人。でも、時代の流れは止められない。これからも、どんどん物質的価値観重視に進んでいくんでしょうね」

そう嘆く佐藤さんの、いまのいちばんの安らぎの場所が、実は北海道の別荘。なぜならそこには、日本人が失ってしまった感謝や義理人情がまだまだ残っているからだと言います。

「北海道の新千歳空港から、さらに1日かかる漁師町で、100軒くらいの集落です。別荘を建てた頃は、龍神様の祠(ほこら)が埃だらけでね。私と娘が夏に行くたびに、『こんなことをしてるといつかバチが当たるからね』と怒りながら掃除をしていたんですよ。そのうち、『そろそろ龍神様の掃除しておかないと佐藤さんが来るとまた怒るぞ』なんてね。いまはいつ行っても祠がきれいになっている。私が歩いていると、漁師さんが『いつ来たー』と言う。あいさつは一切なしです。私が『いまだよ』と答えると、『後で魚、持っていく』なんて言ってくれる。そういう関係が、面倒くさくなくて好きですね。

漁村なのに、温暖化で年々、魚が捕れなくなっている。それでも、『海があれば、食べるくらいは魚がいるもんな。ありがたいよ』ってね。一切文句言わない。そこに私は感動するんですよね」

最新作『冥界からの電話』を「これが最後の作品」と言う佐藤さんに、今後の予定を伺うと、「本当に最後よ」と答えが返ってきました。

「もう、目が悪くなり耳も聞こえない。亥年ですから、いつも真っしぐらに勢いよく歩いていましたがね、いまは曲がるとよろめく。階段もつらい。こうやって自然と体が衰え、欲もなくなり、死んでいけるんだと実感しますね。
長生きする良さというのは、死ぬのが怖くなくなること。この世に未練を残すことなく死にたいと思ってきましたが、私はもう、やり残したことは何もないですね」

最後と言いながら、『晩鐘』『九十歳。何がめでたい』『冥界からの電話』と精力的に執筆してきた佐藤さん。次の作品も楽しみにしたい!

 

 

◆心に留めておきたい佐藤さんの3つの言葉

「取り戻したいのは日本人の精神性。基本は、感謝の気持ちです」

「肉体は無になっても魂は永遠に生き続ける。だから、恨みつらみを残しちゃいけないのね」

「長生きして良かったのは、この世に未練なく逝けること」

 

取材・文/丸山佳子 撮影/原田 崇(人物) 

 

 

佐藤愛子さとう・あいこ)さん

1923(大正12)年に作家・佐藤紅こう緑ろく、女優・三笠万里子の次女として生まれる。詩人・サトウハチローは異母兄。甲南高等女学校を卒業後、結婚・離婚を経験し、27歳で作家デビュー。46歳、『戦いすんで日が暮れて』で直木賞。77歳、自伝的小説『血脈』で菊池寛賞。92歳、『晩鐘』で紫式部文学賞受賞。


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新刊

『冥界からの電話

新潮社 1,200円+税

ある日、死んだはずの少女から医師のもとに電話がかかってきた。生きていたときと変わらぬ声で。その電話にはどんな意味があるのか。これは全て、実話。死後も魂は滅びないなら、私たちはどう生きればいいのかを問う渾身の一冊。

この記事は『毎日が発見』2019年1月号に掲載の情報です。

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