佐藤愛子さん95歳「離婚も、心霊騒ぎも不幸じゃない。全ての人には役割があるから」

2017年、日本でいちばん売れた本は佐藤愛子さんの『九十歳。何がめでたい』(小学館)でした。90代の作家が、年間書籍売り上げナンバーワンの大ヒットを生み出したのは、史上初。大きな話題になりました。95歳になってもなお、新刊を刊行する佐藤さんに、年を重ねても輝ける生き方の秘訣をお聞きしました。

佐藤愛子さん95歳「離婚も、心霊騒ぎも不幸じゃない。全ての人には役割があるから」 1901p015_01.jpg2016年撮影

 

幾つになっても適度な忙しさが元気のもと

2018年春に取材をさせていただいたときは、「売れたって、何もめでたくないですよ。バカ売れしたから1日に取材が3回も入って、血圧は乱高下する、体重も減る。出版されてからは大忙しでした」と、怒りながら、笑いながら話してくれた佐藤さん。でも、『九十歳。何がめでたい』を書いて救われたこともあるのだとか。

「『晩鐘』という小説を書き上げ、90歳も過ぎたことだし、もうこれで作家人生を終わりにしようと何もしていなかったら、鬱々(うつうつ)としてきてしまった。これはちょっと困ったなと思っていたら、女性週刊誌から連載の依頼があったんです。それで書き始めたのが、あのエッセイ。そう読む人もいないだろうと気軽に書いているうちに、体調も良くなってきた。だから、年取ったからといってぼんやりしているのはよくない。幾つになっても適度に忙しいということが、元気のもとですね」

佐藤愛子さん95歳「離婚も、心霊騒ぎも不幸じゃない。全ての人には役割があるから」 1901p017_01.jpg秘書をつけない佐藤さんは、出版社からの電話も自分で受ける。人に依存せず、自立して生きる心意気は、日常生活のあらゆる場面で感じられる。

そして2018年11月には、95歳で最新作『冥界からの電話』を刊行。今回の作品は、佐藤さんが親しくしていたある医師のところに、事故死した少女から電話がかかってくるという実話を基にしたノンフィクションです。医師から相談された内容を克明に記録していた佐藤さんは、当時の事実を確認するために改めて取材をし、3年がかりで執筆をしたというのですから、驚かされます。

「登場人物の名前や地名は変えていますけれど、全て本当に起こったことです。ほとんどの人は、人間は死んだら無になると思っているでしょうけれど、そうではない。死んだら肉体は無になるけれど、魂は永遠に残り、死後の世界もあるということが、これではっきり分かった、という気になったんです。
でも、こういう話をすると、私はおかしい人間だと思われるから困るんです(笑)。いまは科学信仰の時代ですからね、証明できないことは信じない。インテリほどそう考えています。私が、『魂は永遠で、死後の世界がある』と言うと、笑うだけでは済まなくて怒りだす人がいる。そういう人たちに私はいつも、『死んでみろ、そうしたら分かる』と心の中で言うしかない。証拠がないんですから(笑)」

 

年を重ねたら精神性を高めるそれは、より良く死ぬ準備

佐藤さんが霊の存在を信じるようになったのは、著書でも紹介されているように、50歳で北海道に別荘を建てたことがきっかけ。その別荘で、誰もいないのに足音がする、声がするなどの超常現象が起きたことが、「私の第2の人生の始まりでした」と佐藤さん。

「もともとはアイヌの人たちの土地だったのに、日本人が侵略して非道の限りを尽くした歴史があります。その悲劇の跡地に何も知らないで私は別荘を建ててしまったんです。夜になるとバチバチと天井で音がするとか、物が移動しているとか、いわゆる超常現象が毎日起きるんです。霊能者といわれる人のハシゴをしたり、いろいろやったけれど結局完全に鎮めるのに20年かかりました。

当時85歳だったある先生が、『私が参りましょう』とわざわざ北海道まで来てくださり、報われないアイヌの人たちの霊が原因と一瞬で見抜いて鎮めてくださった。お金は一切受け取らずに。人間性の高い人は、損得など関係なく、困っている人を助けてくれるものなんですね。だから、高額なお金で霊や前世を見るなんて話は信じちゃいけませんよ(笑)」

この経験を通し、肉体が死んでも魂は残り、恨みつらみを抱えた魂は、永遠に恨みつらみを抱えてさまようことを実感したという。

「全ての人には何らかの役割があるのだと思います。私の場合は物書きだから、霊や魂のことを書くために選ばれたんじゃないかと、ある霊能者に言われたことがあります。いまは、私もそう思いますね」

だから、今回の本は、最後の使命だと思って書いたのだそうです。

「私はいつも経験主義なんです。経験したことだけが真実で、その経験の中から、何をくみ取るかが大事だと思って生きてきました。私の人生を振り返ったら、波瀾万丈もいいとこですよ。最初の亭主は戦争でモルヒネ中毒になって帰ってくるし、次の亭主は事業に失敗して倒産。借金返済のために便宜上籍を抜くと言われてその通りにしたら、すぐに別の人と入籍していた。亭主の借金を私が全て返して北海道に別荘を建てたら、今度は心霊騒ぎ。人から見れば、トラブル続きの幸少なき人生に見えるでしょう。

でも私の価値観からいうと、大した不幸じゃない。もともと人と比べて幸せだとか不幸だとかを考えませんしね。自分の思う通りに生きているんだから、人にどう思われようと関係ない。むしろつらい経験をした方が修行になります。苦しいことが起こったら、闘って前に進んできた。だから、恨みつらみが育つヒマがないんです。
年を重ねたら、魂の波動を高めるために精神性を高めていかなければいけない。それは、より良く死ぬための準備です。ところがいまの日本人は、精神性を失ってしまった。悲しいことだと思いますね」

 

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取材・文/丸山佳子 撮影/原田 崇(人物) 

 

 

佐藤愛子さとう・あいこ)さん

1923(大正12)年に作家・佐藤紅こう緑ろく、女優・三笠万里子の次女として生まれる。詩人・サトウハチローは異母兄。甲南高等女学校を卒業後、結婚・離婚を経験し、27歳で作家デビュー。46歳、『戦いすんで日が暮れて』で直木賞。77歳、自伝的小説『血脈』で菊池寛賞。92歳、『晩鐘』で紫式部文学賞受賞。


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新刊

『冥界からの電話

新潮社 1,200円+税

ある日、死んだはずの少女から医師のもとに電話がかかってきた。生きていたときと変わらぬ声で。その電話にはどんな意味があるのか。これは全て、実話。死後も魂は滅びないなら、私たちはどう生きればいいのかを問う渾身の一冊。

この記事は『毎日が発見』2019年1月号に掲載の情報です。

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