近頃は平均寿命が年々延び、「人生100年時代」も間近。そんな時代に、心は前向き、体は健康に日々暮らしていくためにはどうすればいいのでしょうか? そのヒントを探るべく、佐藤愛子さんにお話を伺いました。作家として活躍し、唯一無二の生き方をしている佐藤さんから、生き方や暮らし方に取り入れたい「元気の法則」を教えてもらいます。
自分の体を信じて自然体でいることが健康法
東京・世田谷にある佐藤愛子さんのお宅を訪ね、勝手口のベルを鳴らすと、「は~い」と声が聞こえ、現れたのは佐藤さんご本人。笑顔で迎えてくださり、「どうぞ、どうぞ」と足早に書斎へ。「今日はお手伝いさんがいないんですよ」と、お菓子とともに手ずから入れたお茶を出してくださいました。
「お手伝いさんには1日おきに来てもらっているんです。2階に娘たちがいますが、1階は私一人。毎日掃除をする必要はなし、買い物もまとめて買っておいてもらえばいいですからね。食事は好きなので、自分でチャッチャと作ります」
掃除と買い物以外は、いまでもすべて自分で行うという佐藤さん。ピンと伸びた背筋、しっかりした足取りは、とても94歳とは思えません。でも、特別な健康法は何も行っていないのだとか。
「外へ行くのが嫌いなので、散歩もしません。でも、わりと足は丈夫ですね。歩くのも速いし。歩幅が大きい。これ、せっかちだからだと思うのね。電話も自分で出るし。お手伝いさんがいても、押しのけて出るの。何回も鳴っていると待っていられないんです。そうすると驚かれるの。作家は自分で電話に出ないらしいのね(笑)。
90歳を過ぎてからは耳が聞こえにくくなり、眼が緑内障。歯はボロボロ。これは老化だからしょうがないですが、さすがに昨年は忙し過ぎて、体がおかしくなりましたね」
昨年、日本で最も売れた本が、佐藤さんのエッセイ『九十歳。何がめでたい』(小学館)。その取材が続き、その上、旭日小綬章の受章も重なり、本当に休む暇がなかったと言います。
「40代の時、2度目に結婚した夫の会社が倒産して、私がその借金を背負った顛末を題材に『戦いすんで日が暮れて』(講談社文庫)という小説に書いたんですが、それで直木賞をもらった時と同じような騒ぎでしたね。あの時は40代だったからやれたんです。今度は90歳を過ぎているわけでしょう。お医者さんから『よくやり抜きましたね。感心するより、あきれるしかない。これ以上弱られたら面倒見切れない』と言われました」
2016年に刊行した『九十歳。何がめでたい』
1年間血圧が乱高下し、体重が2㎏減。それで治まったのは、「もともと体が丈夫だから」と佐藤さん。「いまは、血圧の薬と血液をサラサラにする薬というのを飲んでいるくらい。でもこれは、お世話をかけているお医者さんへの義理で飲んでいるの。本当は、薬は飲みたくないんです。薬を飲んで体が濁ってしまうと、いま、自分の体に何が必要で、何を食べればいいか分からなくなるでしょう。よく、健康ために○○を食べなければいけないとか、○○を食べちゃいけないとか言いますけど、そんな情報に振り回されていたら、きりがない。
私は、〝自分が食べたいと思ったもの、自分の体が欲したものは、身になるものなんだから、食べる〟という考え方。これは、長い間お世話になってきた野口整体(1940年代から野口晴哉<はるちか>氏が提唱し、全国に広がった整体による健康法)の考え方ですが、私は、"なるほど、これは正しい"と思ったら、それを守るんです。
自分の体を信じて、自然体でいるから健康なのかなと思ってますね。あと、基本的に人間好きなので、こうして取材で人が来ると急にエネルギーが湧いてくるし、怒るとエネルギーが湧くのね(笑)」。
台所へさっと動かれて、お茶を入れてくださいました。
生きることに解釈や分析なんて必要ない
世の中に対して、何か間違っていないか、その考え方はおかしくないかとズバッと言い、愛情を持って怒ってくれるところが、佐藤さんのエッセイの真骨頂。
この日の取材でも、「読者からは、人生100年時代を生きるコツを伺いたいという声がとても多くて...」と言った途端に、「生きるためのコツなんてある訳ないでしょう。そういう質問が多いからものすごく変わった世の中になったと思ってますよ」と、厳しい言葉が返ってきました。
「"何のために生きるのか"なんて考えるのは、数少ない哲学者ですよ。我々凡俗は、朝起きたら朝やること、夜になったら夜やることをして、おなかがすいたらご飯を食べる。ご飯を食べるために働く。働くために考える。単純なことよね。なぜ生きることに解釈や分析が必要なんですか。一人ひとり価値観が違うのに、いまは人の考え方と同じでありたいという気持ちの人が多いように思います。
不安? 何が不安なんです? どうも、よく分かりませんね。私には。老後の生き方は? とか、50代の幸福は? 60代の幸福は? なんていちいち聞かれるけれど、人の幸福なんて分かるわけがない。早い話が佐藤愛子の人生なんて、幸福だと思う人なんていないでしょう? いまの私を見たらそう思えるかもしれないけれど、ここへ来るまでは悪戦苦闘の日々ですからね。でも私はそんな日々も不幸とは思わなかった。それだけのことですよ」
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取材・文/丸山佳子 撮影/原田 崇
佐藤愛子(さとう・あいこ)さん
1923(大正12)年大阪市生まれ。甲南高等女学校卒業。1969年『戦いすんで日が暮れて』で直木賞受賞。父・佐藤紅こう緑ろく、兄・サトウハチローら佐藤家の壮絶な家族史を描いた『血脈』で、2000年に菊池寛賞を受賞。