富司純子さん、東映のスターから梨園の妻を経て「その時その年齢で、あるがままに生きてきたいま」

映画『椿の庭』に出演している富司純子さん。舞台は海の見える美しい庭のある日本家屋。季節ごとにきものや障子を替える美しい日本の暮らしが、ため息の出るような映像で描かれます。富司さんの日々への思いを伺いました。

富司純子さん、東映のスターから梨園の妻を経て「その時その年齢で、あるがままに生きてきたいま」 2104_P066_01.jpg

「あ、いけない」と思って、背筋を伸ばすようにしています(笑)

──とてもすてきな映画でした。

こんなに美しく撮ってくださって、女優冥利に尽きるというか、これ以上の作品はないんじゃないかと思います。

この年齢になって、こんな出会いがあるなんて本当に幸せですね。

その時その年齢で、あるがままに生きてきたいまだからなのかなと思います。

──富司さんは東映のスター時代にご結婚後、梨園に入られました。それもあるがまま、ということでしょうか。

家と撮影所の往復だけで、まったく自分の時間を持てませんでしたから。

9年間、女優をしていたので、それで十分でした。

──梨園の妻という生活は、大変お忙しいかと思います。

本当にあっという間に一日が過ぎてしまいますね。

自分の時間が持てたら、好きな映画を見に行ったり、本をゆっくり読んだり、温泉にのんびりつかったり、そんなことをしたいなと思うんですけど......。

何年か前、箱根の温泉に行けた時はちょうど桜が満開で、すごくきれいだったんです。

コロナが落ち着いたら、また出かけたいですね。

富司純子さん、東映のスターから梨園の妻を経て「その時その年齢で、あるがままに生きてきたいま」 2104_P067_01.jpg

すてきな一軒家はお手入れが...(笑)

──主人公の絹子さんを演じられて、いかがでしたか?

昔ながらの日本家屋が舞台ですが、お台所やお風呂場はモダンな西洋風で、なんとも趣があって。

あのお家にいるだけで心地よくて、自然と絹子さんでいられました。

──ご自身の家については?

いまは子どもたちも独立したので、夫と猫2匹で持て余しています。

一軒家は主婦が大変ですよね。

この映画のお家も本当にすてきですが、お庭の手入れやお家のメンテナンスを考えると、年齢とともに「マンションの方が楽かな」なんて思ってしまいますね(笑)。

──物の整理や片付けなどは、どうされていますか?

母が亡くなった時に、きものや物の整理が本当に大変だったんです。

だから、片付けなければと思うんですけれど、こうして生活を続けていると、残しておいたものが偶然、役に立つこともあるんですよね。

──劇中のおきものの多くは、富司さんの私物だそうですね。

娘時代に撮影所の行き帰りに着ていたものや、ちょっとした時に着るきものを集めておいたんです。

こうして役に立つ時もあると思うと、終活はもう、息子や娘がばっと処分してくれたらいいなと(笑)。

──きものや着付け姿も、背筋がすっと美しかったです。

背筋が伸びていないと、年を取って見えるから「あ、いけない」と思ってぴしっとするように気を付けています。

Eテレの体操を10分間、あとはスクワットを少しだけ、毎日やるようにして。

どうしても寄る年波で、楽な姿勢になってしまうんですよね(笑)。

夫婦や家族の日々にいまだから思うこと

──家を通して、絹子さんの亡き夫への思いも描かれます。

家は夫婦で作っていくものですよね。

絹子さんはかわいい女性で、ご主人への思いが強かったんでしょうね。

私は......そうですね(笑)。

お芝居のことしかできない人だから、夫より1日でも元気にとは思いますけれど。

夫婦ってそんなものじゃないかなと。

──いま、大切なことは?

家族が宝物です。

皆が元気で笑顔でいてほしいし、それを見ているのがいちばんの幸せ。

毎日、何てことない日々の繰り返しですが、何かをしなければと気負うことなく、自然体で悔いのない一日を過ごせたら。

それに尽きますね。

取材・文/多賀谷浩子 撮影/烏頭尾拓磨

 

富司純子(ふじ・すみこ)さん

マキノ雅弘監督に見出され、1963年にデビュー。以降、多くの作品で活躍。近年の出演作に『舞妓はレディ』(2014年)、『散り椿』(18年)など。07年に紫綬褒章、16年に旭日小綬章を受章。

『椿の庭』

4月9日(金)シネスイッチ銀座他、全国公開
監督・脚本・撮影:上田義彦
出演:富司純子 シム・ウンギョン 鈴木京香 他
配給:ビターズ・エンド 
写真家・上田義彦の初監督作。人生で最も豊かな時を迎えた母と、その娘、そして孫。3世代の女性の思いが、四季のうつろいとともに描かれる。

(c)2020“A Garden of Camellias”film partners 

この記事は『毎日が発見』2021年4月号に掲載の情報です。

この記事に関連する「趣味」のキーワード

PAGE TOP