映画『椿の庭』に出演している富司純子さん。舞台は海の見える美しい庭のある日本家屋。季節ごとにきものや障子を替える美しい日本の暮らしが、ため息の出るような映像で描かれます。富司さんの日々への思いを伺いました。
「あ、いけない」と思って、背筋を伸ばすようにしています(笑)
──とてもすてきな映画でした。
こんなに美しく撮ってくださって、女優冥利に尽きるというか、これ以上の作品はないんじゃないかと思います。
この年齢になって、こんな出会いがあるなんて本当に幸せですね。
その時その年齢で、あるがままに生きてきたいまだからなのかなと思います。
──富司さんは東映のスター時代にご結婚後、梨園に入られました。それもあるがまま、ということでしょうか。
家と撮影所の往復だけで、まったく自分の時間を持てませんでしたから。
9年間、女優をしていたので、それで十分でした。
──梨園の妻という生活は、大変お忙しいかと思います。
本当にあっという間に一日が過ぎてしまいますね。
自分の時間が持てたら、好きな映画を見に行ったり、本をゆっくり読んだり、温泉にのんびりつかったり、そんなことをしたいなと思うんですけど......。
何年か前、箱根の温泉に行けた時はちょうど桜が満開で、すごくきれいだったんです。
コロナが落ち着いたら、また出かけたいですね。
すてきな一軒家はお手入れが...(笑)
──主人公の絹子さんを演じられて、いかがでしたか?
昔ながらの日本家屋が舞台ですが、お台所やお風呂場はモダンな西洋風で、なんとも趣があって。
あのお家にいるだけで心地よくて、自然と絹子さんでいられました。
──ご自身の家については?
いまは子どもたちも独立したので、夫と猫2匹で持て余しています。
一軒家は主婦が大変ですよね。
この映画のお家も本当にすてきですが、お庭の手入れやお家のメンテナンスを考えると、年齢とともに「マンションの方が楽かな」なんて思ってしまいますね(笑)。
──物の整理や片付けなどは、どうされていますか?
母が亡くなった時に、きものや物の整理が本当に大変だったんです。
だから、片付けなければと思うんですけれど、こうして生活を続けていると、残しておいたものが偶然、役に立つこともあるんですよね。
──劇中のおきものの多くは、富司さんの私物だそうですね。
娘時代に撮影所の行き帰りに着ていたものや、ちょっとした時に着るきものを集めておいたんです。
こうして役に立つ時もあると思うと、終活はもう、息子や娘がばっと処分してくれたらいいなと(笑)。
──きものや着付け姿も、背筋がすっと美しかったです。
背筋が伸びていないと、年を取って見えるから「あ、いけない」と思ってぴしっとするように気を付けています。
Eテレの体操を10分間、あとはスクワットを少しだけ、毎日やるようにして。
どうしても寄る年波で、楽な姿勢になってしまうんですよね(笑)。
夫婦や家族の日々にいまだから思うこと
──家を通して、絹子さんの亡き夫への思いも描かれます。
家は夫婦で作っていくものですよね。
絹子さんはかわいい女性で、ご主人への思いが強かったんでしょうね。
私は......そうですね(笑)。
お芝居のことしかできない人だから、夫より1日でも元気にとは思いますけれど。
夫婦ってそんなものじゃないかなと。
──いま、大切なことは?
家族が宝物です。
皆が元気で笑顔でいてほしいし、それを見ているのがいちばんの幸せ。
毎日、何てことない日々の繰り返しですが、何かをしなければと気負うことなく、自然体で悔いのない一日を過ごせたら。
それに尽きますね。
取材・文/多賀谷浩子 撮影/烏頭尾拓磨