『涙そうそう』『さとうきび畑』などのヒット曲をはじめ、ジャズからオペラまで幅広いジャンルに取り組んでいらっしゃる森山良子さん。コンサートツアー『MyStory 』がスタートした森山さんに、2020年を経て感じたことを伺いました。
歌を通して、皆さんの大切な人生と向かい合っているといま、感じます
ーー自粛中いかがでしたか?
ステージで歌うことが私の主軸ですから、心許なくて。
一体、私は何者なんだろうという気持ちになりました。
だから、9月に高原の小さなホールでコンサートができた時は、歓びが頂点に達して、涙で歌えなくなってしまって。
楽屋に帰って猛反省しました。
ーーステージで歌うことへのストイックな姿勢を感じます。
舞台に立った時は、55年間蓄えてきた引き出しを存分に使って、森山良子の音楽をお届けしたいんです。
14歳から師事している声楽家の坂上昌子先生も「たかが歌、されど歌よ」って。
客席の皆さんにもそれぞれの人生があって、私の歌を通して、何かを思い出したり、涙を流したりしてくださる。
そうやってひとつひとつの大切な人生と向かい合っているのを感じるので、涙で歌えなくなるなんて「こらぁ!」なんです(笑)。
ーーそういう姿勢は歌手であるご長男の直太朗さんにも受け継がれているのでは?
私の父も音楽家でしたが、私がプロになってからは「良かったよ」しか言わなかったんですね。
それに対して母は「あなた、あんな声しか出ないの?」とか辛辣なんです(笑)。
私も直太朗が歌い始めた時はつい言い過ぎたりしましたが(笑)、いまはなるべく言わないようにしています。
でも、母の言葉が悔しくて、ずっと原動力になっているので、近くで厳しいことを言う人がいてもいいのかもしれませんね。
森山さん流毎日の楽しみ方
ーー年齢を重ねていくことには、どう向き合われていますか?
楽観主義なんでしょうか、わりと何でも楽しめる方ですね。
自粛中はインスタグラムを始めたり、何か決まったことをしようと大きなバスマットを仕上げることに決めて毎日チクチク針仕事。
隣に娘夫婦が住んでいるので、ワンタンだとか工作みたいにできるお料理を孫と一緒に作ったり。
娘婿(お笑いコンビ・おぎやはぎの小木博明)が韓国ドラマ『愛の不時着』をすすめてくれたので、いち早く見ました。
主演のヒョンビンの大ファンなんですよ。
ブロマイドも持っています(笑)。
色とりどりの細長い生地をぬい合わせた大きなマットは、「1日2時間はやろう」と決めて自
粛中に仕上げた大作
ーー小木さんと番組で共演されたのを拝見したことがありますが、いい婿姑関係ですね。
そういえば...って話し始めると1~2時間になって(笑)。
嘘のような本当のような話をするので、すごくおかしいんです。
人に気を使わせる人でも、ヘンに気を使う人でもないので、お互い楽にいられるところがありますね。
いまだから、気付けたこと
ーー自粛中にこれまでの来し方を振り返られたそうですね。
もともとジャズ歌手になるのが夢でしたが、若い頃にフォークソングで注目され、そこからなかなか外れることができなくて。
もちろん当時があったからいまがあるのですが、「自分の好きな音楽は何だっただろう」ともう一度考えて、本当に歌いたかった曲を模索していきたいと思っています。
歌い続けていると『ざわわ』がうまく歌えなくなることがあるんです。
そういう時に坂上先生のところに駆け込むと、「ざ」をしっかり発音し過ぎているって。
些細なことなのですが、日々、そういう学びの繰り返しです。
ーー長いキャリアや天賦の才がおありでも、日々の努力は続くのですね。
天性のものも少しはあったかもしれませんが、それだけでは絶対にやってこられなかった。
最近は以前よりちょっと高い声が出るようになったのですが、こうやって探求していける毎日が、私にとって最良の日々だと思っています。