2021年の新刊から不朽の名著まで、「毎日が発見」連載陣ら11人が推薦する「年末年始に読みたい良書33選」。今回は連載「生活の哲学」でおなじみ、哲学者の岸見一郎さんが薦める「親との関係を考えさせられる本3選」をご紹介します。
【前回】医師、作家の鎌田實さんが薦める年末年始に読みたい「生き方を見つめなおせる本」3選
岸見一郎さんが薦める「親との関係を考えさせられる本」
(1)『孤独の発明』
ポール・オースター/著 新潮文庫 737円(税込)
父子関係をめぐる著者の回想録
(2)『父の遺産』
フィリップ・ロス/著 集英社文庫 785円(税込)※
(3)『父を見送る』
龍應台/著 白水社 2,640円(税込)※
※一般の書店では入手が難しいことが予想されます。ネット書店や古書店、図書館などで入手できる場合があります。
親のことを私はあまり知らない。
もっと早くたずねておくべきだったと思っても、母は早世し、父は晩年認知症を患い過去を失ってしまった。
そんな自分に重ねながら読んだ本。
(1)ではオースターが父の遺品と対峙し、孤独の中で生きた父の実像を理解しようと努める苦悩を語っている。
父と暮らした幼い頃の思い出が蘇る──愛された思い出もつらい思い出も。
(2)ではロスが脳腫瘍の父に人工呼吸器を繋ぐかどうか決断を迫られる。
繋がなければ父は苦しまずにすむ。
しかし、「私の父の生命、私たちが一度しか知ることができない生命を終えてしまう決断を、どうして私が引き受けられよう?」
ロスは父の顔に唇をくっつけて囁いた。
「父さん、もう行かせてあげるしかないよ」と。
私はこんな決断はできなかった。
(3)は龍應台が綴ったエッセイ集。
母の老い、父との別れ──。
母に会いにいく時は着く前に電話を入れる。
「もしもし。私が誰かわかる?」
母が朗らかな声で答える。
「誰かは知らないよ。でも、あんたのこと好きだよ」
親とのこれまでの人生がどんなものであったとしても、子どもも「今」親を好きになればいい。
介護は後悔の集大成といえる。
それでも、その時々できる最善のことをしてきたはずだ。
取材・文/オフィス・エム(寳田真由美)