胃の中でもぞもぞ...。尻尾のある「ピロリ菌」が胃痛を招く/やさしい家庭の医学

胃の中でもぞもぞ...。尻尾のある「ピロリ菌」が胃痛を招く/やさしい家庭の医学 pixta_5639544_S.jpg病気やけがをしたとき、それに関する用語(病名・症状など)の意味をそもそも知らなかった、なんてことはありませんか? また、時代の流れとともに「ADHD」「ノロウィルス」など新しい用語もどんどん現れています。

書籍『やさしい家庭の医学 早わかり事典』で、病気や健康分野の正しい知識を身につけ、いざというときに役立てましょう。

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胃の粘膜を盛んに動き回る悪性の菌

「ピロリ菌」

●慢性胃炎や胃がんの原因とも

「ピロリ菌」とは、胃の粘膜(ねんまく)に生息する細菌で、胃や十二指腸などの病気の原因の一つとされているものです。

らせん状をしており、長さは4マイクロメートル。一方の端に「べん毛」と呼ばれる細長い尻尾が4~8本付いており、この構造によって胃の粘膜の間を盛んに動き回ることができるようになっています。

ピロリ菌の正式名は「ヘリコバクター・ピロリ」といい、1982年、オーストラリアのウォーレンとマーシャルという医師によって発見されました。医学界では、その1世紀前から、胃の中にらせん状の細菌が存在するという説がありましたが、胃の中は強い酸性のため細菌が生息することはできないという説によって否定されていた面がありました。

ですが、ピロリ菌は、強い酸性の胃酸から胃を守る働きのある表層粘膜の中で動き回っているため、生息することが可能であり続けていたのです。

ピロリ菌に感染する経路はまだわかっていませんが、マーシャルの研究結果により、口から体内に入ることによって感染することは証明されています。

また、人がピロリ菌に感染するのは5歳以下の幼児期が多いとされ、近年では両親から子どもへの、いわゆる家庭内感染が原因と疑われています。少なくとも、幼い子どもへの食べ物の口移しなどには注意する必要がありそうです。

ピロリ菌に感染すると、慢性胃炎や胃がん、胃潰瘍(かいよう)、十二指腸潰瘍などに罹(かか)りやすいとされています。

これは、ピロリ菌がつくり出す「ウレアーゼ」という酵素と胃の中にある尿素が反応してアンモニアを発生させることによるもので、アンモニアは直接胃の粘膜を傷つけてしまいますし、ピロリ菌を攻撃するための免疫反応によって胃の粘膜に白血球が集まってしまい、炎症を引き起こすことになるわけです。

とくに、慢性胃炎の原因はピロリ菌の長期感染によるものとされ、現在では抗生物質によるピロリ菌の除菌治療が行なわれています。

胃炎はアルコールの飲み過ぎや食べ過ぎ、ストレスなどによって起こりますが、とくに原因が思い浮かばないのに長きにわたって胃が痛むような場合は、ピロリ菌による可能性を疑い、検査を受けてみるとよいでしょう。

 

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中原 英臣(なかはら・ひでおみ)

1945年、東京生まれ。医学博士。ニューヨーク科学アカデミー会員。東京慈恵会医科大学卒業。77 年から2 年間、アメリカ(セントルイス)のワシントン大学にてバイオ研究に取り組む。その後、山梨医科大学助教授、山野美容芸術短期大学教授を経て、現在、新渡戸文化短期大学学長、早稲田大学講師。おもな著書に『ウイルス感染から身を守る方法』(河出書房新社)、『こんな健康法はおやめなさい』(PHP 研究所)、『テレビじゃ言えない健康話のウソ』(文藝春秋)などがある。


 

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この記事は書籍 『やさしい家庭の医学 早わかり事典』からの抜粋です

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